第68話 食事は最高の幸せ!
信道を離したゴルーケンが怪物の頭の上をくるくる飛んでいる。
「「「「「宝石合体」」」」」
「宝石変形!」
掛け声に合わせてゴルーケン以外の宝石獣達は体をバラけると一つに集まり人型の三体の宝石の巨人が誕生する。
カブトとアンキロは久しぶりに各巨人達と合体した。
「「「完成!兜ホウキュウオー+イカ大剣」」」
「「完成!ゲーターオーボクサー!」」
「完成!ブラキオダイオー!」
完成した三体の宝石巨人は悪食怪物を抑える為に突っ込んで行く。
:
その頃、悪食怪物に飲み込まれた信道は体内を彷徨い魔石を探していた。
「恐らく魔石の側にいるはずだ」
怪物の体内は予想通り気持ち悪かった。
変身していなかったらこの嫌な空気であっという間にコロッと行くだろう。
「ここは?肺か?」
やたらと広い空間な上に毛みたいなもんがびっちりだ。
「ん?」
壁に何かくっついている。
信道は恐る恐る近くとそこに居たのは異常なほどガリガリに痩せたカイトが肉の壁に張り付いていた。
「おい大丈夫か?」
息はある。しかし…ガリガリすぎる…栄養失調をかるく超えてる…
「このままじゃマジでこいつ死んじまう!」
信道はカイトを壁から引き剥がそうした時。
「うわぁ!?」
信道の背中が何かに当たり爆発した。
信道は膝をつく。
「な、なんだ?」
「まさか、こんな所まで入ってくるなんてな」
「な、お前は!」
今正に涼達が戦っているあの悪食怪物自身が自分の体内に現れたのだ。
「なんで自分の体の中に現れるんだよ?」
「魔人族に不可能はないのさ!」
「どう言う理屈だよ」
全く訳わからない。
「なあ、一つ聞いていいか?」
「なんだ?」
「あれだけ馬鹿な食い方しといて何でコイツは不自然な程ガリガリなんだ?」
肥満になってもおかしくない程馬鹿な悪食したならこんなガリガリは有り得ない。
「ふん知れたことよ!その人間には一切栄養は回らないんだよ。俺様だけが動く為にな!」
「紛いなりにも身体を借りた奴がやる事かね?」
「借りたのではない奪ったのだ!もはや用無しだその亡骸は!!」
「俺は嫌いなんだよな…」
「何がだ?」
「何が嫌いかって?それはな…食事を楽しめない奴と今にも死にそうなくらいお腹をすかせた奴を見捨てる事と…それを嘲笑う奴をだよっ!!」
信道を声を荒げながら右に宝救丁を左に濁酒銃を構えて悪食怪物に斬りにかかる。
:
信道が腹の体内で戦っている頃、涼達も巨大化した悪食怪物と激しい戦いを繰り広げる。
巨大化した悪食怪物は食する度にさらに巨大化していってしまいこのままでは手がつけられなくなってしまう。
「くそ押さえつけようにもどんどんデカくなっちまう!」
「どうするんですか涼殿?」
「とにかく殴って動きを止める!」
「結局力技か君は…」
兜ホウキュウオーはイカ大剣を左に右に宝林ノ太刀を構えて交互に斬りかかる。
しかしタイヤみたいな感触の身体が弾き刃がまるで通らない。
「この脂肪邪魔」
「ワニ!」
噛んでやる!
ワニ爺が頭を上げて噛み付く。
「…ワニ…ニ…」
不味い!!ぺっぺと吐くワニ爺。
「魔人族は皆んな不味いティラよ!」
「ワニ!」
それを早く言わんかっ!食い意地張ってる場合じゃないだろ!
ゲーターオーは硬いダイヤの拳で殴りかかるがやはりタイヤみたいな触感でまるで効いてない。
「くそ効かない」
「まるでゴムですね」
「アレキサンドライトに貫けぬ物は無い!ゴムなんか楽勝だ!」
ブラキオダイオーは左手の槍を突き刺さすが全然貫けない。
「嘘!?何で硬いアレキサンドライトが!」
「ゴムと言うよりタイヤに近いな」
「タイヤ?」
「なんですかそれは?」
「俺の世界の硬くて柔らかい素材だよ。タイヤじゃ斬りつけもまず効かないぞ」
例えるなら工事現場のトラックのタイヤ並みの分厚さか。こんなのそうとうな力が無きゃ貫けない。今のブラキオじゃ多分無理だ。
「ゴムに似てるのにこの差はなんなのよ!」
「なんせ車を走らせる為のもんだからな自転車ならまだしもよ。こんなトラックみたいな太さじゃ…」
「涼さっきから判らない回答ばっかすんな話がついていけないだろ!」
いけないこの異世界には車や自転車はないんだった…じゃあタイヤも判らないか。
ガブ!
「まっずっ!!やっぱ不味いティラ!」
「だから噛むな!」
「ぺっぺ!じゃあどうすんだティラよ!」
「のぶが出るまで耐えるしかないだろ!」
「そうね!」
「ですな!」
「のぶさんならきっと大丈夫です」
「涼より頼りになるからな!」
「ひっでぇ笑。けどのぶさんはきっと来る!だからみんな頑張れ!」
涼達は少しでも動きを止める為に再び悪食怪物に立ち向かって行った。
:
「うぉぉぉぉ!」
信道は体内の悪食怪物と交戦中だ。
しかし戦っているうちにだんだん空気がピリピリと感じてきた。それどころか何だか足元が熱く感じてきた。
肉の壁に捕まっているカイトの靴が溶け始めた。
「まさか胃液か!?」
「そうだここは俺様の腹の中だ!」
ち、胃袋まで誘導されたってか。肺じゃなかったのか。
「このまま俺様の餌食にしてやる!」
「胃袋ね…だったら!」
信道は濁酒銃を構えて周りに撃ち始めた。
「は?何処を狙っている?全然マト外れだ」
だが信道は撃ちまくる。
「ははは!いくら撃っても腹の中では効かぬわ!」
やがて纏っているスーツにも胃液がかかり始めた。上から垂れてきたのだ。
カイトの着ている服がみるみると溶けていく。このままだと2人共溶かされる…
「さあ、観念したらどうだ?じきに貴様達は溶けるのだぞ胃液が溜まってな」
「その胃袋が動けばな!」
「何?」
ズキン
「うっ!?何だ急に胸が!」
「いくらお前が食欲旺盛でもな、度数の高い酒が胃袋を満たせば胸焼けを起こすわな」
「な、なんだとっ!?」
そう信道がやたらと濁酒銃で撃ちまくっていたのには理由があった。
いくら頑丈な胃袋があろうが度数の高い酒を浴びるほど胃袋に充満させればいくら怪物でもアルコールにやられて胸焼けを起こして痛み出すわけだ。
「でもって馬鹿みたいに悪食していたツケが回るようにアルコール度数が一番高いウォッカスピリタスをぶち込んでやったんだよ!」
ウォッカスピリタスとは世界で一番度数が半端ない酒で弱い奴が飲めばコロって行くどころでは済まない半端ない度数のウォッカだ。
「ちなみにこの酒は発火しやすくて危険でもある」
信道はそう言ってシリンダーにチェンジエッグに入れた勇者石(チェンジストーン)を入れてシリンダーを回した。
シェイク!シェイク!シェイク!〆の一杯!
濁酒銃からバチバチと電流が流れてくる。
「ば、馬鹿やめろっ!」
「雷酒一撃!はっ!」
引き金を引いた瞬間。
ドッカーン
悪食怪物の胃袋が大爆発を起こした。
:
「う…オェーーー!」
巨大化した悪食怪物は腹の中で大爆発した爆風に耐えられず勢いよく食べた物を吐き出した。ゲロゲロと表現したくない程物を吐き出す。
「うわ、汚なっ!!」
「ありゃモザイクかかるな」
「そんな事言ってる場合か!!」
「アーアー!」
空で待機していたゴルーケンが急降下し悪食怪物が吐き出した信道とカイトを空中でキャッチコックピットへ入れた。
「サンキューゴルーケン!」
「アーアー!」
信道は無事に脱出しカイトを救い出した。
悪食怪物は吐き気がまだ収まらずしゃがみこんで口を押さえていた。
「みんな待たせたな!」
「のぶさん!」
「のぶ一体何をしたんだ?」
「あの怪物ゲロを吐いたんですぞ」
「ちょっと酒を盛りすぎただけだ」
「酒?」
「ラッパ飲みは命に関わるって事さ!涼一気に決めるぞ!」
「おう!真・宝石合体!」
涼の掛け声で宝石獣達は再びバラけると一つに集まり重なっていく。6人は一つのコックピットに集まる。
ゴルーケンも加わり10体の宝石獣と6人の勇者が集まり向かう所敵なしの巨人が誕生する。
「「「「「「完成!エンガホウキュウオー」」」」」」
「さあ、一気に倒すわよ!」
ブラキオダイオーは右肩に着いたキャノン砲にエネルギーを貯め始めた。
エンガホウキュウオーもイカ大剣改に雷と炎が纏い始める。
「う、ウェー…ん?」
やっと吐き気が収まった所でもう遅かった。
「「「「「「エンガホウキュウオー!炎雷兜割り!」」」」」」
「ブラキオダイオー!アレキサンドロスバスター!」
エンガホウキュウオーは構えた大剣を振り下ろし悪食怪物を叩っ切り、ブラキオダイオーは右肩のキャノン砲から光の大砲を放ち怪物を貫き空の彼方へ飛ばした。
「吐いてる奴を襲うとは卑怯な〜」
悪食怪物は夜空で大爆発し消えた。
2体の宝石巨人の背後から美しい朝日が上がる。
「ちっ!使えないわね!」
アイカは爪を噛みながら何処へ消えた。
悪食怪物に食べられた人達は奇跡的みんな無事で洗脳は解けた。
閉じ込められていた王様達も無事に解放しこれから街の復興が始まる。
アリシアがガネット王国に救援を頼んだおかげで思ったより復興が早そうだ。これでやっと縁結びの国は元どおりになるだろう。
:
「ん…んん…ここは?」
見知らぬ天井が目の前に見える。カイトは目を覚ましたのだ。
「海斗!大丈夫か?」
「カズ?お前生きてたのか?ていうかここは?」
「俺たちの馬車だ」
目を覚ましたカイトに声をかける涼。
仲間達も目を覚ましたカイトの元へ集まる。
「お前らはが…俺を…?」
「海斗。この人達は命がけでお前を助けてくれたんだぞ」
「アイカは?」
「居ませんでした。」
「そうか…また俺…騙されたのか…」
「海斗…」
ガリガリにやせ細り皮しかもはやないみたいに見窄らしくなった自分に情けなさしか感じない海斗。
海斗はベッドから出るがガリガリに痩せた身体は思い通りに動いてくれず倒れこんだ。
「海斗!」
「触るな…カズ…もういいから…死なしてくれ…」
「馬鹿言うな海斗!俺たちはまだ死ぬ訳にはいかないんだ」
「アイカは…俺を利用しただけだった…情けないよな、今更思い知らされるなんて…」
床に顔を埋め涙を流す海斗。
「本当…まぬけだ…」
「なんか…声をかけにくいな…」
「あの泥棒女にどんだけ道化にされたんだか」
全くあんな女の事なんかほっとけばいいのに…何がよくてこだわったんだよ。
「なんか可哀想です」
「自業自得だろ」
「全くですな、馬鹿にも程がありますよ」
「ルーガル…ちょっと黙ってくれ」
「?」
今の一言で更に凹んだのか生きる気力を完全に無くしかけてる。
「でも、このままじゃ本当に死ぬでありますよ!」
「ブラキオの力は自殺は防げても栄養失調による死は回避出来ないもの」
「治癒術じゃそこまではどうにも出来ないから」
「術じゃ埋められないんだよ。空腹はな!」
信道が台所から料理を運んできた。
「おい、しっかりしろ!」
「ん…あんたは?」
「料理人だ。」
信道はそう言うと倒れているカイトの横に熱々の炒飯を置いた。
「余り物で作ったもんだが食いな!」
鼻をくすぐる香ばしい香り。
ぐーきゅるるる
特大の腹の虫が鳴り響く。
カイトは起き上がりスプーンを持ち炒飯をかっこむ。
「はぐ、はぐはぐ!」
カイトは涙と鼻水を流しながら炒飯を頬張りひたすら食べる。
「はぐ、はぐ!う…う…まい…」
カイトは久方ぶりの暖かい食事に涙が止まらない。炒飯なのにこんなに美味しくて嬉しくてたまらなくなる。
「美味いか?」
「美味い…です」
「そうか、まだまだあるから沢山食いな!」
海斗はひたすら食べた今まで食べた物を思い返すと涙が溢れる。
ご飯ってこんなに美味しくて、手料理がこんなに暖かくて嬉しいなんて今まで知らなかった。
海斗は信道が作った炒飯を全て平らげると今までで一番安心した顔でその場で眠り込んでしまった。
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