恋は幻想の中に
恋する2人を、今まで、どれほど見てきたのだろう。
何千回?何万回?何十万回?何百万回?
実際に目の前ですれ違った数だけでも、私の年齢を考えれば相当な数になる。
だけど……、私がその世界に存在したことは1度も無い。
小学生のとき、大人の恋する2人とすれ違ったら、これは、いつか必然的にやってくる遠い未来の世界なのだろうと……、どこか他人事だった。
10代と20代という時間を生きているとき、同年代の幸せな恋の光景を、私はただ……、指をくわえて見ていることしかできなかった。
そして、恋ができない年齢になった今、恋する2人を見て、あれは遠い過去に存在したはずの、幻想のように映るんだよ。
私は家族愛の無い人生に加えて、恋愛の無い人生で終わってしまった。
言いようのない圧迫感が正常な精神を押し潰した。
仕方のないことだ……、人間とはそういう作りになっている。
絶望して何が悪い?自暴自棄になって何が悪い?廃人になって何が悪い?
警察官、刑務官、裁判官、精神科医……、私はいろんな場所で、いろんな肩書の奴にそんな問いかけを無意識のうちにしてきた気がする。
1回しかない人生……、恋愛ができる時間を何もできずに終わったのだから、別に壊れてもいいだろ。
残りの人生など、もはや、老いと孤独と死しかないのだから……。
ただ、私の訴えは、誰にも響かない。
ゴミ人間扱いされて終わりだ。
恋する2人を見て……、今でも、いろんなものが突き刺さる。
なぜ、中学生や高校生が当たり前のようにできることが、私には命を懸けてもできなかったのか?と……。
1回きりの人生……、迫りくる死……、恋する2人の姿……。
あの幻想の世界には、いったい何があったのか?
あの幻想の世界では、どんな自分でいられたのか?
無念は、時間とともに、膨大に膨らみ、私の自殺願望と殺人願望を大きく揺さぶる。
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