若いっていいね

「若いっていいね」


私が、そんな言葉を使っている。

滑稽だよ。

私が若かったとき、この言葉を中年に言われてムカッときたことがある。

こんな風に、心の中で言い返していた。


『お前にも若いときがあっただろ、このクソボケ野郎が……。しかも、お前の若いときは高度経済成長期だから、どんなゴミ野郎でも仕事があって、私の半分の仕事量で私の3倍の給料がもらえて、みんなが出世して、みんなが家を買えて、みんなが結婚できて、みんなが子供2人を作れた時代……、そのくせ家では、オレは苦労をして生きてきた!とぬかしよる最高の時代だっただろ、このクソボケ野郎が!』


私が20代のときに50代だった奴らだから、一緒に働いているからわかるんだよ。

それがどうしたことか……。

今度は私がそういう立場になった。

しかも、私は転落している。

同年代の奴らと同じように、幸せと成長を手にしていない。

もし、高度経済成長の時代だったら、私のような家族観の壊れた天涯孤独でも、余裕で幸せと成長を手に入れられた気がする。

あのとき会社にいた50代の連中を見ていれば、それが手に取るようにわかる。

私は、家族なし、友人なし、恋人なし、結婚なし、子供なしで1回きりの人生を終えてしまった。

最後まで、この世に誰もいなかった。


私は今、若者に交じってネット上で会話をしている。

しかも女子高生・女子中学生と……。

なんという情け無さだろうか……。

私は若者を装っていないので、ブロックされまくるし、突然のアカウント削除で相手が消えてしまう。

まぁ、途中から若者を装うようになったけど……。

有料の出会い系で、鬼畜や罵詈雑言なんか山のように経験しているから、別に痛くも痒くもない。


10代の若者たちはネット上に様々な悩みを書き込んでいる。

毎日のように「死にたい」と叫んでいる。

死ぬ気なんて、5000%無いことくらい、すぐにわかる。

中には、本当に実行に移す人もいるのでしょうけど……。

ただ、99.9パーセントは違う。

「じゃあ死ねば?」と返信したら、どんな逆ギレメールが返ってくるだろうか……。

リスカ、アムカ、腕に刺繍、舌をハサミで切る、至るところにピアス、そんな承認欲求に飢えた画像や動画が飛び交う。

残念ながら私には、その全てが、ただの成長の過程としか思えない。

数年後、最愛の相手とともに、ごく普通に、幸せな人生を送っているのだろう。


若い頃、私は中年たちに羨ましがられた……、ただ年齢が若いという理由だけでね。

今度は、私が、今の若い人たちを見て、羨ましく思っている。

いや、羨ましい……とは、かなり違う感覚かな?

ただ理由は、年齢ではない。

私の世代よりも、親と結婚している人が増えた気がする。

そりゃ、いつの時代にも幸せのラインから外れる奴はいるけど、その比率は時代の流れとともに増えると思っていたけど、増えるどころか減っている気がする。

私の世代だけがハズレくじというのは被害妄想かもしれないけど、肌感覚ではそういう結論になるね。

今みたいに、SNSがある時代に若かったら、人と繋がれただろうか……と、考えざるを得ない。

私は、何もできずに人生が終わってしまったため、今でも、若さという幻想を追いかけている。


ネット上にいる若い子たちは、みんな、承認欲求に飢えている。

「私を見てください」「わかってください」「理解してください」「助けてください」「かまってください」「愛してください」と……。

しかし、それは切実な悩みではない。

どちらかと言うと、ゲーム感覚だ。

ただ、全員がそうではない……、ただ、繋がれるという点では、ネットが無かった私の時代とは違う。

SNSがあるかないかで、全然違うなぁという印象を受ける。

アホな政治家が、アホな法律を作って、『ネットから未成年を守る』と大義名分を掲げるが、それが実は逆効果であり、追い詰められている若い人を、さらに追い詰める結果になっていることは、私の若いときと、やっていることは変わらないなぁと同情はするけど……。

もし、天涯孤独の私が、今の時代に若かったら、このSNSをどのように使ったのだろうか?

ちょっと想像がつかないね。

それにしても、「死にたい」という発言をしてから、「彼氏ができたからアカ辞めます」「結婚しました」という発言が飛び出すまでの変わり身の早さは凄いね。

羨ましい限りだ。

ほとんど全員が、そんな感じだからね。

中年になった私が書き込みをする。

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