『SEXマニュアル』という本を家宅捜索に来た警察官が見つけたときの顔

十人くらいの警察官が、私の部屋を家宅捜索するために来た。

白い手袋を付けて、片っ端から、このゴミ屋敷の物品をチェックしていった。

やたらと、任意同行を強要してくるので、この時点では、犯罪を立証する証拠はゼロのようだ。

当然、逮捕状も無い。

私から自供を引き出すという方針であることが見て取れた。


任同に応じてしまえば、人と繋がって生きている人なら、私の経験上、ほぼ確実に自供すると思う。

そいつらの「黙秘します」は、ただの強がりで、最初だけだと思う。

これは容疑者として、取調室を経験したものにしかわからない。

私が自供することは絶対に無い。

独りで生きた人生だったからね。

それでも取調室での缶詰めは、相当しんどい。

体力的にも精神的にもね。

まぁ、だからと言って自供はしないけどね……。


家宅捜索では、印象に残っているシーンがある。

それは、ただでさえゴミ屋敷の私の部屋で、警察官が戸棚を開けて、一品一品チェックしているときに出てきた一冊の本のことだ。

『SEXマニュアル』というタイトルの本だ。

警察官が、私の目の前で、それを1ページずつ、素早くめくっていた。

何というか……、自己嫌悪を通り越して、なんか未知の領域に踏み込んだって感じだったね。


そもそも普通に生きていたら家宅捜索なんかされない。

やんちゃ系の遊び人なら、別にどうってことはないのかもしれないけど、私は真面目系の遊べない人間だから、余計にツラい。

天涯孤独に加えて、根暗、無口、真面目、臆病、対人恐怖、優柔不断、性悪……。

もちろん、恋愛、結婚どころか、デート経験やセックス経験は、一生無い。

まぁ、私は、尽きることの無いゴミ人間だからね。

一方で、警察官は将来が安定している公務員で、そのほとんどが、絵に描いたような幸せな人生を送っているはず……。

見た目も、同年代って感じがしたので、なんか、切ない気持ちになったね。

その本には、愛撫の仕方とか、セックスに至るまでの流れ、四十八手と呼ばれる体位などがカラー写真で載っている。

そもそも、こんな本を持っている奴は、真面目系のゴミだけと思うし……。

容疑者である私を目の前にして、彼(警察官)は何を思ったのだろう……。

どうせ、できもしないくせに、幻想だけを抱いているクズゴミ野郎とでも映ったのだろうか……。

そのときの表情が、それを物語っていて、とても印象的だったね。

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