壁画が崩れ落ちるように

何という大きな壁画だろう。

高さ何百メートル?横幅も何百メートル?

圧倒されるよ。

私は今、壁画の前に立っている。


恋する男女の姿が描かれた壁画だった。

何千人、いや、何万人が描かれているだろうか……。

石でできているにもかかわらず、色がふんだんに使われている。

とても繊細な絵だ。


しかも、この男女は、私が実際に見てきた人たちだ。

今まで、数えきれないほどの恋愛シーンを見てきた。

羨む想いや、妬む想い……、無念の想いや、絶望の想い……、あの当事者には一度もなれなかった。

何もできずに1回きりの人生を終えた私は、完全に壊れてしまった。

この壁画の内容に、人生を壊された。


私はジッと壁画を眺めながら想いをめぐらす。

生涯、誰とも出会えなかった。

何という運命か……。

人間、死ぬ運命(早く死ぬ)と、出会えない運命(生涯、恋愛できない)にだけは、取りつかれてはいけないのに……。

私は、後者に取りつかれた。


私がどれほどの無念を抱えているか、誰にわかるだろうか……。

死んでも死にきれない……。

そんな叫びを何億回繰り返しただろうか……。

運命には勝てない。

どうにもならなかった……、どうすることもできなかった。

無念すぎるほどの無念しかない。

この壁画も、バーミヤン渓谷の石仏のように、粉々に爆破してもらいたい。

そして、私は……。

その下敷きとなって命を落としたい。

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