パスタ
以前、コンビニの直営店で店長をしていた。
毎日、賞味期限切れ食品(社内規定による)を食べて生活をしていた。
食費はゼロで済むし、食品廃棄自体は、毎日、必ず発生するから、それを継続するのは可能だった。
食品ロスが発生するメカニズムは、販売数が仕入れ数と同数、または、販売数が仕入れ数を上回るチャンスロスの状態になるような仕入計画にはなっていないからだ。
ロスのパーセンテージも、あらかじめ計画に組み込まれている。
逆にそうしなければ、常に棚がカラカラの状態になり、客が寄り付かなくなるというわけだ。
毎日毎日、廃棄する食品を持ち帰って、主食にしていた。
そのとき、パスタを持ち帰ることもあった。
普段、パスタは食べない。
以前に1回、店で食べただけ……。
そのときのことはトラウマで、記憶から消されていたが、廃棄パスタを手にしたときに、それが甦ってしまう。
今、振り返れば、あれは本当に現実だったのか……と思う。
そこには、今とは違う私がいた。
若い頃は、大量の薬を使って、違う自分を演じていた。
その自分のまま、生き続けるつもりだったけど、残念ながら人間の本質は変わらない。
本当の自分に戻ってしまった。
正確に言うと、作り上げていた虚像が無くなったという感じ……。
あれは、モデルと舞台俳優をやっていた頃だ。
ある日、稽古の合間を縫って、4歳年下の女優の卵と、2人だけでイタリアンに行った。
別に好意で誘ったわけではなく、流れでそうなった。
私は、ほぼデート気取りだったけど……。
正直、右も左もわからない。
心臓バクバク……。
メニューを見ても、何もかもがわからない。
でも、常連のフリをして、パスタを注文した。
そこまでは良かったんだけど……。
パスタを食べるとき、フォークで上手く巻けずに、全くどうしようもない状況に追い詰められて万事休すだった。
「一気にたくさん巻こうとするから、巻けないんだよ。最初は1~2本だけ巻いて、そこから巻いていけばできるよ」
と言われ、鼻で笑われた。
精神が壊れて、一気に詰みそうになった。
それでも、その虚像をやり続けることができたのは、若い時間を生きていたからだろう。
何か無限のエネルギーみたいなものが、その年齢の頃にはあったね……。
ただ……、デートは、生涯、できないなってわかったかも……。
あまりにも本当の自分とかけ離れ過ぎていて、場違いの感覚が半端じゃなかった。
ハードルが高すぎて、どう考えても、その領域にはいられないと思った。
結局、この30年間、仕事と拘禁施設以外で誰かと過ごしたり会話したりした時間の合計は、全部足しても24時間いかない。
その24時間に満たない時間の中で、異性と一緒にいられた時間が連続で3時間を超えたことは1度もない。
案の定、私は、何もできずに1回きりの人生を終えてしまった。
演じきれなかった。
完璧な男性像を……。
理想の男性像を……。
俳優を目指していたくせに……。
パスタを食べるたびに、このときの、こもれびの時間が……、脳裏に映し出される。
無念と悔しさで頭がおかしくなりそう。
もう、自殺願望と殺人願望しか残っていない。
時折、入り込んでくるレイプ願望も、童貞のまま、男性機能が無くなった時点で消えてほしかったけど……。
私は、どんな破滅に導かれるのだろう……。
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