抗弁

そうだ、お前の言う通りだ。

私は、何を言っているんだ?

そうだ、お前の言う通りだ。

その通りだ。


「刑務所に入ったのは、あなたが悪いことをしたからじゃないの?悪いことをしなければいいだけじゃない!」


そうだ、その通りだ。

突然、金づちで頭を殴られた感覚だった。

何か、麻痺していた。

麻痺というのは、他人と自分とでは生きている世界が全く違うのに、感情任せに、自分の感覚で言い放ってしまったことを指している。

他人に、自分の人生は、これこれこうだからこうなんだ、と説明しても意味はない。

「お前だって、私と同じ家に生まれ、同じ外見・性格・身体的能力・知能指数(IQ)を持ち、同じ環境で育ったのなら、同じ運命をたどっていたはずだ」と反論しても意味はない。

私の人生では、犯罪は必然だった。

家族なし、友人なし、恋人なし、結婚なし、子供なしで、1回きりの人生が終わってしまった。

生きる意味・気力・目的・希望は、全て失われた。

自暴自棄になった。

善悪の区別がつかなくなって、壊れていく自分を止められなかった。

『本当の孤独』に陥って破滅した人間の気持ちなんて……、他人にわかるわけがない。

それなのに、不可抗力という言葉を盾に、心の中で抗弁してしまった。

感情に任せて言い放ってしまった。

そうなんだ。

お前の言う通りだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る