玄関に結婚式の写真を飾る人って、誰に何を見せたいのだろう?

このご時世、訪問営業なんて、ただの変質者扱いしかされないけど……。

まぁ、なんだかんだで、そういう仕事で、いろいな人の家を訪れた経験がある。

一番、印象に残っているのは、アパート・マンション暮らしの新婚カップルの家だ。

流行なのかは知らないけど、玄関に2人の幸せそうな写真が飾ってあることが多い。

結婚式のときに撮った写真が多いかな?

友人たちからの、お祝いのメッセージカードや集合写真も一緒に飾ってある。


あるとき、二階建てアパートの一階に住む家庭を訪問した。

このときは、飛び込みではなく、電話連絡の上でという形だった。

例によって例のごとく、玄関にはたくさんの写真が飾ってあった。

玄関で、そこの奥様と仕事の会話をした。

話が終わりかけた頃、最後に(書類に)「印鑑だけお願いします」と言うと、「ちょっと、取ってきます」と、部屋の奥へと離れていった。


私は迷わず、それらの写真をジーっと見つめる。

出会ってから、恋愛に発展し、結婚をして、その延長戦上にある今の1分1秒が、この顧客の人生の歩みであることがわかる。

多くの友人に祝福された結婚式だったこともわかる。

写真には、たくさんの笑顔が写っていた。


私は自分の感情を抑えなければならなかった。

なぜなら、私は家族なし、友人なし、恋人なし、結婚なし、子供なしで1回きりの人生を終えてしまったから……。

おまけに、恋愛経験なし、デート経験なし、セックス経験なしというクズっぷり。

この違いは何だろうか……。

私は命懸けで出会いを探し、その結果が、このザマなので、手段が初めからなかった。

これが運命……、本当に残酷だなって思う。

この仕事が終わったら、私はしばらくの間、虚しい時間を過ごさなければならないね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る