訴訟(裁判や裁判外で係争するという感覚とは・・・)

私は弁護士を伴って、人と争った経験がある。

ここで言いたいのは民事の方であって、逮捕されたあとの刑事の方ではない。

まぁ、私自身、元受刑者なので、当然、そっちの経験もしているけど、そのときは国選弁護人による弁護だったため、私に訴訟費用は1円も発生していない。

そもそも、この国で刑事被告人になるということは、経験上、裁判をしたという感覚が残らない。

なぜなら、有罪の確証をもって逮捕するから、私には形式的なものにしか感じなかった。

刑事裁判の場合は、ほとんどのケースが有罪・無罪を争うのではなく、量刑がどれくらいになるか?を言い渡される場所って感じかな?

感覚としては、一連の流れの一つというだけで、特に印象はなかった。

それに、公開の裁判というけれど、私の経験では、傍聴席に誰かが座っていたことは、おそらく、一度も無かったと思う。

その裁判所で一番大きい法廷(1号法廷)だと、それなりの傍聴人はいるみたいだけど、私にはその経験が無い。

もし、あんなところに誰かが座っていたら、法廷の中では一番目立つ存在になっていたと思う。

まぁ、誰もが経験することではないので、一つの人生経験にはなったけど……。


ただ、民事のときは違った。

一連の流れの一つではなく、本当にガチの係争だった。

刑事のときは、私は加害者としてそこに居たのだけど、民事の場合、私は被害者だという認識でそこ居たので、そもそも立場が違う。

私は相手を叩き潰す覚悟で、弁護士を付けた。

私が経験した感覚では、変な言い方になるけど、相手と、ずっと喧嘩の状態が維持されていれば何の問題も無かった。

こちらは相手を叩き潰す覚悟なので、頭の中は、怒りと憎悪に満ちていて、戦闘モードになっている。

おカネを持っていない私が、そうまでして叩き潰す覚悟を決めるほどの屈辱だったしね。

私は、まず、何があったのか?という、事実関係を時系列で詳細にまとめた。

そのあと、私の意見・心情を書き上げて、法的問題点を書き上げた。

あまりにも怒り心頭だったため、その一件があったその日のうちに関係各所に連絡して、弁護士との打ち合わせ日を決めてしまったため、打ちあわせをするための資料の作成を、寝る間も惜しんでやらなければならなくなってしまった。(最終的には30枚くらいのレジュメ)

数日後、弁護士と打ち合わせをした。

いよいよ戦闘開始といった感じで高揚感に包まれていた私だったが、それからさらに数日後、相手方から「謝罪したい」との一方を受けてしまう。

まだ、裁判手続きに入る前だったので、何もしていない状態だった。

これは、私が全く想定していなかった事態で、全て、私に返ってくることになってしまった。

結局、私は謝罪を受け入れ、形式的には何もなく終わった。

残ったのは、弁護士費用の支払いと、後味の悪さだけ……。

そのまま続けても良かったけど、もう何のメリットも無かった。


そのとき、わかったのは、ずっと喧嘩の状態が維持されていれば、何の問題もなく勝利の美酒に酔うことができたと思う。

(裁判になれば100%勝てる内容だった。たとえ負けたとしても充実感に満ちていたと思う)

ただ、こういう風に途中で腰砕けになってしまうと、そのダメージは、全部、自分に返ってきてしまう。

しかも、その返り方が、今回の訴訟の域を超えて、私の存在や人生が全否定されるような感じだった。

相手は、社会的地位があって、結婚もしていて、子供もいる。

年相応の人生を送ってきている。

一方で、私は、家族なし、友人なし、恋人なし、結婚なし、子供なしで1回きりの人生を終えて、年相応の人生とは程遠い。

日が経つにつれて、虚しさだけが膨れ上がっていった。

結局、敗北感に包まれてしまった。

何もしないで放っておいたら敗北しかなかったし、何か行動を起こしても敗北にしかならなかった。

私は、何のために何をしたかったのだろう、となってしまった。

私の経験した刑事・民事の感覚は、こんな感じだったね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る