牢屋の中で一緒だった人からの電話
突然、電話がかかってきた。
知らない番号だった……。
以前なら、無視してブロックして終わり……だったけど、今は、出ても問題ないプランで契約しているので、出ることの方が多い。
話し始めると、すぐに詐欺ではないことがわかり、知っている人だったことが判明した。
私は、この世に、会話の相手とメールの相手が1人もいない人生なので、通常、絶対にあり得ないことなんだけど、たまにイレギュラーが発生する。
電話の相手は、牢屋の中で一緒に過ごした人だった。
「出たら会おうよ」なんてことは、実は、よくあること……。
そのとき、番号を交換していた。
まぁ、牢屋の中だから、すぐに携帯電話に登録できないので、そのまま放置して、忘れていた。
タイムラグがあるんだよね、こういうのって……。
牢屋で一緒だった期間は半年……、私は判決時に裁判所で釈放されていて、この人は実刑判決を食らって刑務所に服役したそうだ。
私が釈放されてから数年後に、突然、電話がかかってきたので、しばらくわからず、「ああ、あのときの……」という感じだった。
刑務所で一緒なら、そういうことはないのかもしれないけど、勾留所・拘置所だと、相手の判決内容によっては時間が過ぎてしまうので、こうなってしまう。
まぁ、相手からしてみれば、時が止まったままなんでしょうけど……。
私からしたら、今さら感があってね……。
ただ、会話の相手がこの世に1人もいない私には、ちょっと感動的な出来事だった。
私がその人との会話で聞いたのは、あのとき、あそこに居た奴が、あのあとどうなったか?ということだ。
結局、みんな、家族や恋人や奥さんの元に戻るんだな……って、そういう答えだった。
誰かと繋がっている人生なら、最初から犯罪なんかするなよバーカ!と、あのときの連中の顔を浮かべながらイラついた。
隣の牢屋にいた私と同じ天涯孤独の爺さんは、故郷の新潟に帰ったと聞かされた。
今頃、どんな生活をしているのだろう……と、かなり引っかかったけど、元気に出所したとのこと。
電話をかけてきたこの人は、今、営業の仕事をしているという。
外国人妻と離婚して、実家で暮らしていると言っていた。
私は牢屋の中で、この人が、妻と子供と家族旅行をしたときの写真を見せてもらったことがある。
それを思い出した。
「実は、あれからずっと読書にハマっていて、今も週2~3冊のペースで本を読んでいる」とも言ってきた。
それなりに充実感が伝わってきて、人生をやり直している感じがわかった。
電話を切ったあと、とても虚しい気持ちになった。
私は何も変わっていないし、生涯、誰とも出会えないし、当然、帰る場所なんて無い。
私のような人間は、また、いつか……、あそこに戻るかもしれないしね。
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