団塊の世代(取引先の営業マンの素顔)

「あいつらはいい時代に生まれ、いい人生を送った……」

私と同年代が、学生時代に、よく口にしていた言葉だ。

あいつらとは、団塊の世代のことだ。

私は20代前半で、モデル事務所を辞め、会社に就職した。

取引先の営業マンなど、人生の先輩方との付き合いはとても大変だった。

当時、私は20代、相手は50代……、特に、あるメーカーの課長さんとの付き合いは本当に大変だった。

いわゆる団塊の世代の人だ。

ほとんど恫喝と恐喝を受けているような感じで、会うのが嫌になるレベルの最悪な人間だった。

もちろん笑った顔など、一度も見たことはなく、頑固で不器用で仕事に対するプライドだけがやたらと高い、典型的な昭和の会社員だった。


この世代の連中は、国民総中流と言われた。

戦中・戦後に生まれ、人の輪に囲まれた大家族主義の中で過ごし、濃厚な上下関係が築かれていた職場では、右肩上がりの高度経済成長期を恩恵を受けた。

誰もが結婚できて、誰もが子供が2人いて、誰もが家を買えて、誰もが出世できた時代……、それでいて家では、「俺は苦労して生きてきた」と平気でぬかしよる。

しかも、私の感覚では……、私の半分の仕事量で、私の倍以上の給料をもらっていた世代でもある。


ある日のこと。

『団塊の世代』を象徴する出来事が、突然、私の目の前で起こった。

その日は、仕事が休みだった。

私は近くのホームセンターの駐車場にいた。

ただ、何気ない、日用品の買い物だった。

私は、運転席に座っていた。

そのとき、たまたま、少し前に駐車していた車に、買い物を終えたばかりの家族連れが乗り込んだ。

年頃の、綺麗な娘さん2人と一緒に、満面の笑みを浮かべたその人の姿がそこにあった。

ショックだったよ。

私も生きる時代が一世代ズレていたら、こんな不器用でも、あの幸せの輪の中にいることができたんだなぁと、改めて思わされた一幕だった。

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