らくがき

らくがきなんて……。

遠い学生時代の思い出の中で、チラッとかすめる程度……。

私は真面目系のクズだったので、らくがきをされたことはあっても、したことは無い。

せいぜい、教科書に載っている写真に何かを書き足すくらい。

らくがきと私の人生は関係ないと思っていたけど……。


今日、地域版のニュースの中で、警察署の老朽化に伴う、建て替えの話題が出た。

そこは以前、私が逮捕されたときに連行された警察署だった。

あそこの取調室の机は、山のように、らくがきがされていた。

長い年月を感じる木の机だった。

今では絶対に見かけない、あいあい傘のらくがきが多数……、中央には『ブラックエンジェル参上』と彫ってあり、エリマキトカゲの絵とか……、机いっぱいに昭和のらくがきが彫られていた。

私は新築の警察署にも連行されたことがあるからわかるけど、建て替えられたら、中にあるものは全て新しくなってしまう。

あの机も、まもなく処分されてしまうのだろう。

あれは……、少なく見積もっても40年は使っていると思う。

あそこで、あの机にらくがきを彫った人は、それなりに紆余曲折な人生を送ったはず……。


私も、記念に何かを書きたかった。

だけど、昔と違って、取調室で何でもできる時代ではなかった。

だから、何もできなかった。

警察官のアホな誘導尋問よりも、あの机は、自供を引き出す効果があったと思う。

なぜか、幼き日々の情景が目に浮かび、あの時代にタイムスリップしたかのような気持ちになったからだ。

まぁ、良い思い出はほとんど無かったけど……。

とにかく年季の入った、懐かしく、温かみのある机だった。

老朽化の一声で、意味のある古いものが一律に無くなっていくのは悲しいね……。

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