打ち上げ花火

その瞬間、思わず夜空を見上げる……。

真夏の暗闇に、現れては消える花火を、私はどんな想いで眺めればいいのだろう……。


今日は、1年に1回の祭典だ。

会場の河川敷には、たくさんの人が集まっていた。

あちらこちらで笑顔があふれる。

すでに、辺りは真っ暗だ。

上空からの見物人は夜空に浮かぶ星々だけ……。


私は、堤防の土手に座り、河川敷の人々を一望していた。

夜の芝生は、ソファよりも座り心地が良かった。

ここに1人で来ている人は、高齢者以外では私くらいかな?

案の定、周りは恋する人たちばかりだ。


すぐ隣に座る20代の男女は、手と手をつないで、お互いの肩に、もたれかかっている。

逆側の隣が、中学生か高校生のカップルだ。

前が、大学生カップルだ。

後ろもカップルみたいだけど、ちょっと振り返りたくないな……。

交際中の男女が発する日常会話って、なんか新鮮だ……。

私は、何をどう逆立ちしても、その当事者にはなれなかった。


開演を告げるアナウンスが流れた。

まもなく始まる。


多くの人がスマホをかざして、空に照準を合わせている。

私は、そんなもん撮って何になる?そんなもんネットに載せて何になる?と、突っ込みたくなる。

せっかく来たんだから、花火を単純に楽しめばいいのに……。

まぁ、私と違って、いつか形にした思い出を振り返れる人は、きっと、幸せな人生なんだろう。


静寂が流れ、全員が、無言で空を見上げた。

その次の瞬間だった。

轟音とともに、花火が打ち上げられた。

隣の2人の顔に、オレンジ色の閃光が、一瞬だけ、激しくぶつかり、そして、虚しく消えていった。

穏やかな笑顔は幸せそのものだった。

私は、その瞬間、どうしてそんなところを見ていたのだろう……。


出会えない運命と人生が死ぬほど悔しい……。

同じ1回きりの人生なのに……。

この閃光は、私には、儚く消えゆく人生の軌跡にしか映らない。

ちょっとツラくなってきたかな……。

まぁ、会場に来れただけでも、少しは人生と向き合えてきたのかな……。

相変わらず、閃光が放たれるたびに、2人の笑顔を見ている。

不幸に酔いに来たのか?それとも、孤独に酔いに来たのか?と、自分に問いかけたくもなる。

まぁ、1人暮らしの部屋の中で、音だけを聞いていても、大して変わらないか……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る