プロローグ

 男は最早日常の一つとなった病室通いへ、今日もまた行っていた。

 看護師を名と顔を覚えられるくらいだ。余程だろう。

 目的の病室の前へ立ち、ゆっくりと物音を立てずに扉を開ける。

 別に立てた所で文句を言える人間ではないが、何となく気にしてしまう。

 扉を閉めながら顔を上げると、いつも女が寝ているベッドの上には誰も居なくなっていた。

「........は?」

 思わず男の思考は止まる。

 当然だ。しばらく意識が起きる事はない、と頼んできた人物がそう言っていたのだから。彼は頼まれている間は起きないだろうと思っていた。

 ベッドへ駆け寄る。

 点滴を取った際に血液が流れたのか、白いシーツに赤い点々が付いている。それ以外には布団の乱れであるだけで、争った形跡はない。

 目を離した際に、連れ去られたのか。

 すぐに伝えねばと顔を上げた時だった。


「........誰?」


 男の首に、冷たいものが当てられる。

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