銃殺の刑

 だららららと、発出音が繋がって聞こえ、一定のタイミングで装填の為にいったん止まる。

 時々、マシンガンのない場所があるので、そこで一度体勢を立て直せば、後ろを追うアイラにも配慮が出来るだろう。

 エルリック一人ならば、一気に駆け抜けるだろうが、今回はそういう訳にもいかない。

「いいか。遅れてくるなよ」

「うん!」

 アイラは素直に頷いた。


 ふっ、と短く息を吐いて、エルリックは駆けた。アイラも遅れずにエルリックの後を追った。

 背中を銃弾が通り抜ける音。ぞくりと背筋を震わせるアイラだが、エルリックは特に気にせずに、タイミングを見計らって勢いよく駆ける。

「平気か?」

 少し広めの場所で、エルリックは足を止めて、背後のアイラへ訊ねる。彼女は特に疲れている様子はなく、ケロッとしている。

 記者としてある程度の体力は必要でそれなりに鍛えていた事が、まさかここで役に立つとは。アイラはグッと拳を握った。

「...大丈夫そうだな」

 ふ、と口元を緩ませて、エルリックは笑う。

 整った顔の柔らかな笑みに、ほうとアイラは息を吐いてそれから瞳を輝かせた。

「...エルは、笑ってる方がいいね!」

「あん?」

「顔がいいから!あ、そうだ。ここから出たら、髪の毛整えよ!ぼさぼさで邪魔そう」

 今この場で話す事だろうか、とエルリックは思った。ここは街中ではなく、〈大監獄〉という牢獄の、銃殺刑と看守長が称する場所である。

 アイラはパッと思い出したように、腰に手を伸ばして、それから少し暗い顔をした。

「どうした?」

「あ、えっと...ヘアゴム、貸してあげようって思ったんだけど...。私も、エルのナイフと同じで鞄...、取られてた...。あはは、すっかり忘れてたよ。いつもここにあるから」

 アイラはとんとんと拳で左腰を叩いた。少し寂しそうに笑うアイラに、エルリックはそうっと視線を外した。

「取り返せれば、いいな。その、俺も...、あのナイフ、使い心地良かったしよぉ」

「うん、そうだね」

 アイラは頷く。それを見てエルリックはまた前を向く。今度は先程より大分長くマシンガンの列が続いている。

「気ぃ抜くなよ」

「うん」

 たっと二人はマシンガンの立ち並ぶ廊下を駆け抜けていく。


 また道が二つに分かれている。

 エルリックが目を凝らしてみるが、どちらの方向も弾のスピードに変化は見られない。

「これは...どっちが正しいんだよ...」

「とにかく進んでみよう!」

 何もヒントが近くにはない。どちらかの道が外れだったとしても、どちらかに進まなければここで立ち往生である。

「っああ!くそ!」

 エルリックは右の道を選んだ。


 マシンガンの雨は終わらない。選んだ道を少し進むと、鉄色の扉が見えた。鍵はかかっておらず、エルリックは勢いよく扉を開けて、アイラもその中へ滑り込む。

「っはぁ、ここは...?」

 アイラは息を整えながら、顔を上げる。


 そこには沢山の銀色のロッカーと、段ボールが積まれた部屋だった。

「なんだ、ここ...?」

 アイラは手近にあった段ボールを探る。

 埃をかぶった拳銃、刃の欠けたナイフ、汚れたリュック、長い黒髪のカツラ。段ボールの中には、そんなものが無作為に詰められていた。

「......もしかして私達の物の、押収物室かな?」

「あ?マジか!ここに俺のナイフもあんのか!」

「うん、捨てられてなけらば、あると思う」

 アイラの言葉にエルリックは手当たり次第に調べ始めた。

 少し、ここで休息も取れるだろう。


 アイラは自分の肩掛け鞄を探す。段ボール、ロッカー。狭い部屋の中を探し回る。

「...っあった!」

 小さな新しい段ボールの中に、アイラの肩掛け鞄が入っていた。中身を確認すると、きちんと元のままそこに収まっていた。

 急いで肩に鞄を斜めにかけ、エルリックの方を向く。

「エル!」

「ん?おぉ、見つけたかお前も」

 エルリックの手の中にも、ぎらりと鋭くきらめくナイフが握られていた。少し刃はくすんでいるものの、きちんと手入れされていた事が分かる程度には綺麗だった。

 アイラは鞄の中から、青いリボンが付いたヘアゴムを取り出す。

「髪の毛、結んであげる」

「......それでか?」

 一応、アイラへエルリックは訊ねた。

 アイラは瞳をキラキラと光らせて、こくりと頷いた。エルリックは少し嫌な顔をしたが、断るのも気が引け、床にドカリと腰を下ろす。

「おら、好きにしろ」

 パッとアイラは顔を輝かせて、するりとエルリックのぼさぼさの髪の毛に指を通す。

「髪質いいのかな?ぼさぼさだけど、さらさらだ」

 こんな物騒な状況に置かれているというのに、アイラは小さく鼻歌を歌ってエルリックの髪の毛を結っていく。

「はい」

 アイラは丁寧にエルリックの髪の毛を結び終えた。

「あぁ、ありがとうな」

 エルリックは結ばれた己の髪の毛に触れ、それから立ち上がる。


「俺は獲物を手に入れたし、お前も鞄を手に入れた。これで先に進めるな」

「ええ」

 エルリックの問い直しに、アイラはこくりと頷く。

 開いている扉からは発砲音が繋がった連射音が響き続ける。

「よし、行くぞ」

 エルリックがタイミングを見計り、床を駆ける。アイラはその後ろをぴったりと付いて走る。


 分岐していた道を過ぎ、ひたすらに進んで行く。

「っここは休める場所ないな...、でも扉は見えるな」

 彼の言う通り、確かに扉が見えていた。

「走れるか、アイラ」

「う、うん。大丈夫」

 アイラは少し胸を撫で、それからグッと親指をエルリックへ突き立てた。ふっと、エルリックはそれを見てまた少し微笑む。

「いち、に、さんっ」

 軽くカウントし、パッと駆ける。

 耳元で背中で目の前で、弾丸は飛び交い、反対の壁に穴をゴリゴリと開けて、硝煙の匂いを鼻に付かせる。

 エルリックが辿り着いた瞬間に、走ってきた勢いをそのまま扉にぶつけ、バコンと扉を開ける。

 そこへアイラが滑り込み、勢いを殺しきれずにそのまま地面に顔から転んだ。


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