15-3
~15-3~
「建設的な話をしましょう」
今後の行動指針こそ表明しておかなければ、受けた恩義を差し引いても眼前の顔が疎ましくなってしまう前に。頷く老紳士、しかし未だその口は重たいらしい。ならば此方から切り出そう、寸刻も惜しいのだ。
「お身内に警護をお願いするのは今後難しいでしょう、餌役は辞退させて頂きますが宜しいか」
相手が再び頷くのを確認して先を続ける。
「此れの容態が落ち着き次第行方を眩まします」
三度頷くかと思われた老紳士は此方の予想に反し口を開く。
「身を隠すのであれば場所の提供は出来るが」
「結構です、人の口に戸が立たぬのが組合の現状ですから」
半ば遮るように発した私の言葉に苦渋の相貌を強める老紳士、納得した様にも思えぬその顔に違和感を覚える。
「…我々の、と言うより私のですか、居場所を掴んでおかないことに何か不都合が?」
猜疑とまでは言わないまでも気付かぬ振りをして拭うにはベタついた違和感だった。
「…有るんだ、其れが」
溜息と共に呟いた老紳士、抱える懸案が日増しに増え、その度に顔の皺も深さを増していくようだった。
「聞きましょう」
そこまで言っておいて四方や話さずに済まそうとも思っては居ないだろうが敢えて詰問するように先を促した。
曰く、私に造反の嫌疑を匂わす噂が立ち始めているらしい。
当初の狙いから言えば必然とも言える。私が抱く組合への反感を餌に造反者を釣り上げる目論見であったのだから。しかし私が会合の警備に就く段に入って懐柔するは難しと見たのだろう、懐中に招けないのであれば隠れ蓑とする。徹頭徹尾無駄の無い即断即決。旧態依然の体制を重んずる組合では後手に回るのも自明だった。
「仕事の辞退を認めたのも結局は其れですか、既に役者の方が不足であったと」
であれば昨夜の強行策にも合点がいく。裏を返せば相手の方針変えにさえ気付く切っ掛けがあれば現状は無かったとも言えるが、これも詮無い仮定に過ぎないか。
「…噂の噴出は会合の前から確認していた、その時には演技の成果と高を括ったが」
「今になって作為有る印象操作の線が濃厚と知れた訳ですか」
「打った芝居の内容から考えれば君の警護に反対意見が出るのは仕方の無い事だ、其れを押さえ込み結果を出せば充分と思ったんだが…」
「悉くアテを外されてましたね、成果より損害が遥かに多く、蒔かれた毒で既に八方塞がってはいませんか」
ソファに凭れ悪態をつく自身の口調が何時しか他人事の様になっている事が可笑しかった。
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