11-4

~11-4~


 事務所の玄関先は未だ慌ただしい。賊共を乗せてきた車輌を動かす為ドアの解錠に勤しむ者、散乱した前庭の装飾を片付ける者、それらの周囲を取り囲む者達の手には黒光りする物が握られているのが遠目にも分かった。


 その中でも頭一つ分上背の高い男と目が合う。男の手招きに従い歩を進めると男は後方のアルヴィスを指差しながら口を開いた。


 「お連れさんは中でお待ちです、車椅子は別に運びますんで」

 恐らく他人に抱き上げられるのを嫌ったのだろう、空になった車椅子がドアの前に置き去りにされている。


 「お気遣いありがとうございます…それにしても良いご趣味で」

 男越しにクラシックカーを見つめながら呟いた。


 「オヤジの趣味でしてこればっかりはね…とは言えガワだけで相応に手は加えてあるんですわ」

 珈琲党が英国車とは、と言う疑問は拭えないがよく見れば成る程と言う出来だった。スモーク張りの窓は恐らく厚みのある防弾、タイヤの形状や其処から伸びる部品を見る限り足回りも相当に改良されているらしい。車体も防弾だとしたら一体幾ら掛かっているのか、試算する気は疾うに失せてしまっていた。


 「お見送りに使って良いと許可は取りましたんでどうぞ乗って下さいや、お屋敷まででよろしいですかい?」

 ご丁寧にドアまで開いて車内に促してくる男にそれで頼みますという意図の返事を返した私は本革張りの柔らかいシートに腰掛けた。



 路面電車を使った通勤時間とは比べようもなく短かった乗車時間はそれでも多少の雑談を交わすには充分な時間が有ったように思う。


 しかし隣に座る彼がその間私に対し口を開くことはなかった。もうぞろお互いに沸き上がる悋気癇癪の類いにも慣れて良い頃ではないかとも考えたが、今回ばかりは危険な依頼を受けた自身の非を認めざるを得ない。


 運転手を務めてくれた男に送迎の礼と老紳士への挨拶を言伝てた私は意外にも抵抗を示さない彼を抱き上げ車椅子を随伴車の運転手から受け取ると足早に我が家の玄関を開けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る