5-3
~5-3~
「分かったからもう止めておけ、潰れたら誰が坊やを連れて帰るんだ」
ターキーのボトルを強引に奪い返した店主は其れをバック・バーに並べ直す。
「話を再開する前に確認しておきたい」
未だ此方に背を向けたままの店主はボトルの配置を弄りながら問いかける。
「どうぞご随意に」
既に催促の言葉は発している。この上未だ勿体を付けると言うならそれは必要な確認なのだろう。
「前任者を用水路に叩き落としたのはお前か?」
両手にボトルを掴んだまま顔だけを此方に向きなおした店主の視線は鋭かった。
「…いや、そう言った依頼は来なかったな」
気圧された私は数瞬を記憶を手繰るのに要してから答えた。
「その通り」
手近な所の整理を終えた店主は再び安楽椅子に腰掛ける。
「街中の掃除屋に片端から訊ね周り一部の幹部にも確認を取ったがそんな依頼は出されていない」
店主は額に手を遣りながら淡々とした口調で言葉を紡いでいく。
「更に言うなら金庫から洗浄待ちの資金が失せている事が発覚したのは奴が死んだ後だった事が分かった」
店主の態度に反して私の動悸は徐々に激しさを増していく。
「奴は横領犯では無かったんだ、寧ろ事態に気付いて早々に口を塞がれた可能性が高い」
此処までの内容をほぼ一息に言い切った店主は深く息を吸い、深い溜息を漏らした。激しくなる動悸に合わせるかの様に私の思考もその速度を増していく。
「其れが事実で有るならば当時流れていた噂は?」―「調べてみたが元は組合が意図的に流した物だ。只の横領なら会計士一人の暴走であって組合に責は無い。だが更に上の、金庫の中身を痕跡を残さずに自由に出来る程の人物の背信行為とあっては組合の意義其の物が揺らぎかねない」
「俺が後任に充てられた理由は?」―「確証はないが恐らく準幹部の扱いを受けている手配師と個人的にも昵懇の間柄であるお前なら同様の事態が発覚した時に早急に対応が出来ると踏んだんだろう。よしんば狙われたとしても身を守る術を持っている。或いは狙ってきた相手を返り討ちにして敵の尻尾を掴む為の餌にされていると考えた方が辻褄が合う」
「まぁ確かに学の無い俺にいきなり主任会計士の話が来た時には驚いたが」―「腕前を買われ過ぎるのも考え物だな」
「思うんだが…アンタに頼むより手配師さんに聞いた方が…」―「早かったかも知れんな」
「…金返してくれねぇ?」―「帰れ」
会話を交わす内に事の全容が掴め掛けてきた私は徐々に落ち着きを取り戻し軽口を叩ける程度には回復していた。
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