第117話:四人目は一体誰でしょ~うか?
なあみんな、知ってるか? ライフル弾の速さはだいたい秒速1000メートルぐらい。それに比べて、拳銃は約3分の1の秒速350メートルぐらいしかないんだぜ?
つまり今セレスさんは銃を構えている勇者様の真正面に立っているけど撃たれたところで余裕で躱せるどころか、ライフル弾を躱せる京○真よりも反応速度が上だからそんなおもちゃ一つ持って意気揚々とこの城に乗り込んできたのかと考えると…もーう片腹大激痛ですわ。
ちなみに俺もあれくらいなら余裕で躱せる…というよりも模擬戦時のティアの動きの方が断然早い。
「先に喧嘩を売ってきたのはそっち。しかもこれが初めてじゃないとなれば…もう答えは分かってるな?」
「こ、この状況だけを見ていい気にならないでください。今日は準備不足なだっただけで、こちらが本気を出せば後悔するのは貴方達の方ですよ」
さっきまでビビってたくせに随分と強気じゃねえか。
「それはそれは、実に楽しみですね。そこまで言うのでしたら…敢えてお前をここで殺さずに一度クロノチアとかいうお馬鹿な勇者を召還して調子に乗ってるお馬鹿な国に無傷で帰してやるよ」
最初は優しく丁寧に、でも途中から相手を煽るような口調でそう言ったあと…ずっと魔法で見えないようにしていたインカムをワザと勇者様にも見えるようにしてやり
「あー、そうそう、ついでだからお前らが途中まで乗ってきた車がある所まで俺が送ってやるから感謝してくれよ。よかったな~、うちの情報部が優秀なお陰で来る時より早く帰れるぞ」
「ま、またはったりですか? さっきから全部自分の仲間任せなくせに随分と偉そうですね」
「うーん、別に自分の部下相手にどっちが偉いとかってのはないけど…少なくともお前よりは無限対数倍偉いわな。つかこの場にいるのが怖いなら正直に早く帰らせえくださいって言えよ」
そう言うと頭にきちゃったのか銃を持っている右手を少し動かしたのと同時にセレスさんも若干動いたのが見え、これ以上何かがあって殺されても困るということで俺は転移魔法を使い勇者御一行にはお帰りいただいた。
それから俺は自分のスマホに入れてある目覚ましアプリを起動させ、五限が始まる十分前の16時30分にそれが鳴るようにセットした後警備室からの報告を聞きながらセレスさんに向かって
「すいません仕事の途中だったろうに突然呼び出しちゃって。こういう場合本当は騎士団の誰かを使うべきなんでしょうけどリサ・ミリー・ユリーの三人以外はまだちょっと使えそうにはないですし、だからと言ってリーダーをこっちに呼ぶわけにもいかなったもので」
ちなみに女の子三人を呼ばなかったのは騎士団側で何かがあった際にアベルとティアというツートップがいなくても対処できる人材を配備しておくために、またリーダーに関しては警備室のシステムを使って常時情報を送ってもらう為である。
「確かに今は新人の子達が入ってきたばかりなので忙しくないと言えば嘘になってしまいますが、今回のように主の近くにいて身を守るのも私の仕事ですし…間近で旦那様のご成長を感じられたことを内心嬉しく思っていましたので私にとっては役得というやつですよ」
おじいちゃん本当にそう思ってた? 俺が許可を出せば一切の迷いなく即殺すと言わんばかりの殺気だったよ。というかあと少しでも勇者が下手なことをすれば絶対殺してたよね?
セレスさんは俺が自分で考えてやったことならどんなに惨めなことになろうともそれは必ず今後に繋がるから自分は何も言わないし、ただ見守るだけだけど、そうじゃない場合は人一倍怒るタイプだろうってお母さんが言ってたけど…これは当たりだったな。
などと少し前のことを思い出していると割とマジで忙しかったらしいセレスさんは一度確認を取ったのち、優雅な早歩きでこの部屋を出て行った。
すると何故かティアがこっちに向かって飛んできて血を吸ってきたかと思えばそのまま人の膝の上にお姫様抱っこみたいな感じで座り、首に自分の腕を巻き付けてきたのだがそれを無視してリーダーに指示を出すことにした俺は
「リーダーはさっきの勇者との謁見の様子を国民に向けて放送してください。あとそこにいるリサ・ミリー・ユリーの三人には当分の間国内の様子を観察、情報収集をして報告書にまとめる仕事をやらせてください」
(お前は邪魔だから離れろ)
「どうやらお主はクロノチアと戦争をする気満々なようじゃが、少なくともあの勇者は完全に騙されておるというのに…本当にやる気かの?」
『その仕事についてなのですが、ソウジ様が許可を出してくださるのであれば何人か新人の子達にもやらせたいのですがよろしいでしょうか?』
この声はユリーか。この状況で新人を使おうとする、使いこなす自信があるとは流石としかいいようがないな。
(騙されていようがなかろうが関係ねえ。残念ながらあのお馬鹿な勇者には俺の計画の為に犠牲になってもらう。……知ってるかティア、国王ってのはこういう汚いことを平然とやるのも仕事の一つなんだぜ)
「別にいいけどこの忙しい時に余計な仕事を増やすんじゃねえぞ」
『貴方が期待する以上の成果を出して見せますのでご安心ください。それに先ほどのソウジ様に対する勇者の言葉が気に食わなかったらしく皆さんやる気十分なようですし」
そう思ってくれるのは嬉しいけど、何事も程々でお願いしますよ。じゃないと俺が暴走した時に殺してでも止めるという大事な役目が機能しない可能性が出てくるから。
などと騎士団の裏の役目について考えながらユリーとの会話を終え、すぐにでも次の行動に移りたい俺は未だに膝の上から降りようとしないティアをどうするか考えていると
「お前ら二人がどういう関係かは知らねえけどさっきの冷酷な笑みや、普段の姿からは想像できないその冷徹な顔をした坊主の上に吸血鬼の羽が生えた状態の師匠がそうやって座ってると…本物の魔王より魔王っぽいな」
「案外…近いうちに周りの者から魔王と呼ばれるようになるかもしれんぞ。……のう、ソウジ?」
まるで本物の魔王を知ってるみたいな会話を人の前でするんじゃねえ。あとお前は色っぽいオーラーを出しながら抱き着くのをやめろ。
「俺は忙しんだから早くどけ」
「ふふっ、何が何でも絶対にわらわの体に触ろうとせんのは相変わらずよのう。別にこっちからお主にくっ付いておるんじゃからそれでどうこう言うわけないというのに」
「おいおい、まさかとは思うけどお前ら二人ってまだなんの進展もない感じなのか? もしそうならここまで色っぽいオーラを出してる師匠も大概だけど、それで普通にこの状況を受け入れてる坊主も坊主だろ。つかなんでお前はそんなに余裕そうな顔をしてるわけ?」
確かに今のティアはかなり魅力的だけど、俺には俺なりの線引きがあるもんでしてね。自分と関係を持っている女の子とそれ以外の子とでは色々と変えてるんだよ。
そう誰に言うでもなく一人心の中で喋っていると、ティアが収納ボックスから冷え○タを一枚出したかと思えばそれを俺のオデコに貼ると素直に降り
「今お主が休むわけにはいかんのは分かっておるし、並行思考魔法を使うのは時間短縮になって効率がよいのも分かっておるがそのせいで熱が出ておるんじゃからあまり無理するでないぞ」
「アベルは自分の部下の持ち場を順番に回ってフォローに回れ。順番は全部お前に任せるからちゃんと考えてやれよ。あとインカムの方は警備室と繋げっぱなしにしてるから何かあった時は念話でよろしく」
「はいはい、坊主も何時かみたいにぶっ倒れないよう気を付けろよ。普通の奴なら最悪回復魔法で何とでも出来るけどお前は普通じゃねえからな」
などとブラック企業の上層部が喜びそうな回復方法を言った後、俺らに背を向け手を振りながら部屋を出て行った。なので俺も一旦リビングに戻ろうかと思い立ち上がった瞬間、いきなりティアがこちらに向かって倒れてきたので咄嗟に真正面から抱き留め
「お、おい‼ 大丈夫……そうだな」
というのも何がしたいのかは知らないがティアに抱きしめ返されたどころか、顎を俺の胸にくっ付け上目遣いで嬉しそうにこっち見ていたのだから。
「さきほどの勇者に対する冷酷な笑みや部下からの報告に対して頭を働かせておる時の冷徹な顔もわらわは好きじゃが、やはりお主はいつも通りの顔が一番じゃな」
「……ほら、リビングに戻るから早く離れろ。この後も授業があるからあんまり時間がねえんだよ」
「別にわらわは構わんのじゃぞ」
そう言いながら抱きしめる力を強めてきたのを受け、俺はティアの耳元に自分の口を近づけてから小声で
「―――――――――」
「んぅ、あんまり遅いと勝手にこっちで進めてしまうからの! 忘れるでないぞ‼」
こいつが拗ねるなんて珍しい…じゃなくて絶対に忘れないようにしておこう。一回それでいきなりどこぞの親父の所にご挨拶へ伺うことになったし。あんなことは二度とごめんだね。
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