第十一章

第114話:新学期の朝

子供達に思春期らしき反応が見られてから約一ヶ月が経ち、残念ながら四月八日の今日から新学期が始まろうとしていた。


ちなみに子供達との関係についてだがこれは自分の周りにいる女性陣や孤児院の院長さんなどにアドバイスをもらい無理に関係を修復させようとするのではなく自然体で相手に合わせてあげることでなんとか元の関係には戻ることができた。


まあこれに関しては女性陣が上手いことフォローしてくれたからなんだろうけど。


なんてことを考えながらダイニングテーブルの自分の席に座ってこっちの世界の新聞を読んでいると、どうやら今日は早めに朝練を終えたらしいアベルとティアが帰ってきたようで


「………なあ、師匠。あの坊主の席に座って新聞を読んでる黒髪の奴は一体何者だ? 同じ黒髪のマイカはさっき廊下で見たから違うし、どーう見ても服装が完全に地球風なんだが。しかも隣に怖い顔をしたリサが座ってる時点で只事ではないだろ」


「最近の情勢を見るに新手の勇者がうちに乗り込んできたのかもしれんし、ここは騎士団長として確かめてみた方がよいのではないかの? もしわらわの予想が当たっておれば中々の無礼者じゃし素直に受け答えせんようじゃったら多少強引にしても大丈夫じゃろ」


こらこら、アベルにそれっぽい嘘を言うんじゃないよ。あいつって馬鹿だから本当にやりかね―――


「おいテメエ、なに勝手に人の大将の席に座ってんだよ」


「………………」


訂正。『やりかねない』ではなく『馬鹿だからすぐ騙される』でした。


「おい、無視して新聞なんか読んでんじゃ……あれ? なんでリサはこの不審者じゃなく俺に剣先を向けてるわけ? しかもなんかめっちゃ怖いじゃん」


「その馬鹿はほっとけリサ。つかいい加減諦めて寮に帰れよ」


「せめて何かしら陛下の安全が保障されていることが分からない限り絶対に嫌です」


「んな、今から戦場に行くわけでもないのに大げさな。だいたい日本の方がこっちの世界より何百倍も安全だっつうの」


さて、何故わざわざリサが朝から家に来た挙句俺の隣で怖い顔をしていたかというと…今日から大学が始まるにあたり流石に何日もいないことが続けば何かしら問題が出てくるかもしれないということで騎士団員の一部には俺が地球とこの世界を自由に行き来できることなどを教えたところリサが護衛として自分もついて行くと言い出したのだ。


まあこっちの世界にいる時は大抵国内のどこかにいるので探そうと思えば簡単に見つけられるのに対し、日本に行ってしまったらそうもいかないので心配なのは分かる。分かるのだが、さっきも言った通り日本の方が安全なのは勿論のことあっちでの俺は普通の学生であって本来護衛が必要なご身分とは程遠い人間なのだ。


そんな奴がいきなり見たこともない女の子を連れてって、『この子は自分の護衛です』とか言っても誰も信じてくれないどころか最悪部外者を校内に連れ込んだとして停学にされるまであり得る。じゃあ魔法で何とかすればいいじゃんかって? 普段外を歩く時ですら護衛をつけてない俺が学校にそれを素直に連れて行くわけないだろ。


ということで昨日は一日中リサから逃げ回っていたのだが途中から副隊長権限を使って全騎士に俺を全力で探すように言い出した時はマジで焦った。それに加えてミナ達からしてみれば護衛として一緒に行ってくれる分には別に困らないどころか逆に助かると考えているので何も言わずにずっと静観を決め込んでいたりする。


その為昨日は途中から変身魔法で女になった後魔力も変えて事態が収まるまで街をぶらついていると夕方頃には諦めてくれたらしくこれで一安心と思ったのも束の間、次はこうやってリビングで待ち伏せしていたリサに捕まり『じゃあせめて今着ている服に防御魔法を付与してください』と言われたのだが寝起きのせいもありつい嫌だと本音を言ってしまったのだ。


そしたらも~う、自分が納得できるまで絶対に俺の傍を離れないのなんの。


「ですがあちらの世界での陛下はただの学生になってしまうのですから、周りの方々が本当の貴方のことを知らないせいでこういう輩が出てきてもおかしくありません。もしそれで何か問題にでも巻き込まれたらどうするんですか?」


アベルは異世界Ver.の俺の姿は知っているものの日本Ver.の方を知らなかったせいで今回ちょっとした問題が生じたのだからその逆もあり得るだろうと。……これでも相手は国王だというのに一切譲らない頑固さといい、普段はこの子大丈夫かなと言いたくなるほど優しそうな感じなのに結構言う時はハッキリ言うタイプといい、ティア達が揃って副団長に推薦した理由はこれかと嫌になるほど感じさせられますね。


「はーあ、分かった分かった。んじゃあこのスマホをやるからそれを使って俺に連絡してこい。まあ授業中とかで返信出来ないこともあるから何時でもこっちの状況を確認できるってわけではないけど、無いよりはマシだろ?」


一応使い方などに関しては話しながら知識共有魔法で簡単に教えておいたので、俺が渡したスマホを素直に受け取ったリサは


「ではあらかじめ連絡をしても大丈夫なお時間をお教えください。もしそれで未読無視等が酷いようでしたら…分かっていますね?」


「言っとくけどその時間なら必ず返信出来るってわけじゃないんだから、間違ってもメンヘラみたいなL○ENは送ってくるなよ」


「まあお主の様な自由奔放過ぎる者を相手にしようと思ったら自然とメンヘラになりそうな気もするがのう」


失礼な奴だな。俺は昔から連絡はこまめにしてるし、夜遅い時はちゃんとお前らに今から帰るって送ってるだろうが。……こっそり夜中に抜け出してる時は別だけど(一応バレてはいないっぽい)。


「ほら、リサがメンヘラになられても困るからこのスマホをユリーとミリーにも渡しとけ。んで俺への定期連絡は三人でシフトを組むなりなんなりしてどうぞ。あと俺のその日の予定が知りたければ―――」


「既に私達の連絡先も入ってるだろうからソウジ君関係で何か知りたいことがあったら何時でも聞いてね。秘書として何が何でも聞きだしといてあげるから」


秘書の立場を利用して勝手にミナ達と話し合ってデートの予定を入れてくれちゃったりするだけでなく、無理やり日本での予定も聞き出そうとするとか仕事熱心にもほどがあるでしょ。


ちなみに俺は本とスケジュール帳は断然紙派なので自分のとマイカが持っている物を魔法で自動同期するようにしてあるのでどちらかが新しく何かを書き込めばスグに分かるのだが、今回のデートの件に関してはこれで発覚した。


その為婚約者組にどこに行きたいか聞いたら三人揃って日本に連れて行けとか言うし、あの子達をお昼ご飯にファミレスへ連れて行くわけにもいかないから無駄に高い高層ビルの最上階に入ってる店の予約を取って連れて行ったはいいものの同じ店に三日連続で行ったもんだから二日目以降に関しては、従業員の間で何を言われてるか分かったもんじゃない。まあ無駄に金を取るだけはあって少なくとも表向きはちゃんと対応してくれたけど。


じゃあ他の店に行けばよかったじゃんって? 残念ながら我が地元は田舎なのでそういった店があんまりないもんでして、車があればまだしもそっちはまだ納車されていないのでそれも無理と。


しかも春物の服が欲しいということなので買い物デートをすることになったのだが、これがまたみんな年頃の女の子なだけあってTheお洒落な店へと連れまわすもんだから周りの視線が気になりすぎて鬱になるかと思ったわ。


まあその流れで通販では絶対に服を買いたくない俺のために数着ずつ服を選んでもらったりしたお陰で当分服には困らなくなったし、何より今では周りの目とかどうでもよくなってきた感があるのは結構大きい。それでもス○バには絶対に行かないけどな‼






それから俺はリサを転移魔法で女子寮に帰してやった後朝ご飯を食べ、リサ達にあげたついでにリーダーにもスマホを渡してから仕事部屋に移動して今度は時間まで自分の仕事を一人で片付けているとリアが紅茶を持ってきてくれたのでそれを飲みながら書類を読んでいると


「あの、少しよろしいでしょうか?」


「ああ」


「なんでご主人様はスマホを余分に四台も持っておられたのでしょうか?」


あ゛ー、なんで学校がある日に限って報告書が多いんだよ。


「あれはなんか人の血を吸って騎士団用の武器を作ってたティアにふざけて全く同じ物を四台作ってくんねって言ったら本当に作ってきたから、丁度いいしってことであげた。まあネットとかの一部機能は少し弄って制限させてもらってるけどな」


「ここ最近アベルとティア様がいつの間にか出来た地下の工房を出入りしていると思えばそういうことでしたか」


「まあ材料費なんかは騎士団の奴らの訓練も兼ねてクエストに連れて行って稼いだ金で買ってるみたいだし、ちゃんと成果を出してくれればなんでもいいだけど」


それに念のためにってことで俺の分もいくつか作ってもらってる最中だし。………念のために、ね。

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