第十章

第101話:ドレスと下着とご自由に

最後の方は完全に感情任せになってしまったものの何だかんだで盛り上がった建国宣言から一時間が経った頃、本日三度目の着替えを終わらせた俺はセレスさんと一緒にリビングがある部屋に入り…自分の席に向かいながら


「なんで着替えなきゃいけないんだよ。別にあのままでもいいじゃん」


「先程は緊急時ということで普段着で来たことに目を瞑りましたが、この後予定されているパーティーにあの恰好でご主人様を参加させるわけにはいきません」


「大体うちのパーティーにマリノのお偉いを呼んだ覚えは一ミリもない。つまりあいつらが勝手に来ただけであって、俺がどんな格好で出席しようが文句を言われる筋合いはない!」


「まあまあ。ソウジ様のお気持も分かりますがこの世の中そうもいかないんですよ。特に今日はこの国の新国王であるソウジ様との初対面。あちら側からしたら自分の目で色々と見定めなければいけないのは勿論、何かしらの繋がりを作っておきたい方々が多いでしょうからね」


どうやら俺以外にも何人か着替えなおしたようでミナ・リア・セリア・お母さんは勿論のこと、この国の宰相であるマイカもドレスに着替えていた。


ちなみにエメさんやセリア以外の子供達、それにさっきの式典に参加していたマリノ側のメイド十人と母さんはパーティーの準備中。そしてアベルと親父二人はというと……さっきと同じ方法で貴族共の相手を押し付けてある。


にしても祝い事のパーティーに黒とピンクのドレスって、中々度胸があるというか…主催者が俺じゃなきゃ失礼に当たるぞ。


なに、7○5プロにいるツンデレアイドルでも目指してんの?


などと考えながらそれを着てらっしゃる問題児を眺めつつセレスさんが用意してくれた麦茶を飲んでいると


「ちょっとアンタ、何見てるのよっ! この変態、変態変態へんたいたーれん‼」


「ブフッーーーーーーーーー‼ げっほ、ごほごほ」


「あーあ、着替えたばかりじゃというのにまーた汚しおって。ほれ、取り敢えず拭いてやるから大人しゅうせい」


そう言いながら珍しくティアがメイドらしいことをしようとしてきたが、それくらい自分で出来るのでタオルを受け取って口元を拭いてから


「おい、どこでそんなセリフを覚えてきやがった。というか、もしかしなくてもそのドレスのデザインも狙って選びやがったな?」


「さ~あ、どうでしょ? ってことでセリフ云々は一旦置いといて、ソウジ君って明るい色と黒色を組み合わせたデザインも結構好きでしょ? だから白にピンクみたいな明るい色を合わせた可愛いデザインのドレスはミナ達三人に任せて、あえて私は真逆の…でもソウジ君が好きそうなドレスを着ようかな~っと思って。……どうかな?」


「ドレスの感想を聞く前に一つ教えろ。なんで俺の趣味をそこまで詳しく知っている? 確かに今マイカが言った色の組み合わせは好きだけど、誰一人としてそんなデザインの服を普段着で着たことはないだろ。百歩譲ってティアの着物のデザインが黒プラス何かってだけだぞ」


「そんなの毎日干してある洗濯物とか、一緒にお風呂に入る時の着替え中なんかに下着の色を見れば大体分かるよ~。まあ普通に本人の趣味も含まれてるだろうから完全にソウジ君の趣味だって断言は出来なかったけど、結構当たってたみたいだね」


「いや、別に俺は三人の下着に関して一言も意見したことはないんだが。確かに今まで見た物のは全部好きだし、ちゃんと自分達に似合う物をつけてるから毎回か、可愛いな…とは思ってたけど」


ちなみに下着に関してだがミナは基本明るめの色で可愛い系のものを、リアはそれと暗めの色で大人っぽいものを半分ずつくらい、そしてセリアは色の統一性などはないが兎に角童○を殺せそうなものをつけていることが多い。


「ちなみにソウジ様的にはどれが一番良かったですか? 大体は私の下着姿を見た時の反応でどんなのが好みなのか分かるのですが、やはり直接意見を聞いてみたいというのが本音でして」


そんなミナの質問に他の二人が続かないはずもなく、全く同じ質問をされてしまいどう誤魔化そうかと思った瞬間、部屋の扉が開き


「旦那様、パーティーの準備が整いましたのでそろそろご準備を」


「えっ? あっ、はい。………セレスさんって何時の間に外に出てたんだ?」


「セレスならソウジにお茶を出した後、静かにこの部屋を出て行ったきりずっといなかったわよ。じゃなきゃ流石に自分の母親である私の前で堂々と将来の旦那様の下着の好みを聞き出そうとするミナでも、マイカがそっち方面の話に持っていこうとした瞬間止めるでしょうし」


いや普通に自分の娘が母親の前でそんな恥ずかしい話をしようとしてる時点で止めてやれよ。おかげで他の二人も完全に流されちゃってたぞ。


とか思っているとミナが全然気にしていないというような顔で


「別に思春期ならまだしも、今更お母様に私の下着のデザインについて聞かれたところで何とも思いませんし、なんなら同じ女性としてアドバイスを貰えればいいなくらいにしか考えていませんでしたので」


「それにレミア様は現役の王妃様でもありますので当然人前に立つことも多いですし、そういった方々は見えない・見せない部分までしっかりと拘るのも仕事のうち。つまりアドバイスを頂くにはかなり適したお方であり、その方が目の前にいるのでしたら聞いてもらわない手はありません」


「しかもレミアは800歳越えとはいえ見た目は完全に19歳前後の女性でありながらも経験値は私達と比べものにならないほど豊富。アドバイスを貰うには打って付けの人材だと思わない?」


少なくとも僕は全く思いませんし、自分の母親に…この場合は父親か、の前で下着の話をするのは勿論アドバイスを貰うなど死んでも嫌だ。


「はいはい分かった分かったから。アドバイスなら後でいくらでもしてあげるから、まずはパーティー会場に向かうわよ。……こっちも一筋縄ではいかないでしょうけど」


おいおい、最後の怖い一言はなんだよ。そんな言葉を聞いたら尚更行きたくなくなったじゃねえか。






そんなお母さんの怖い一言を聞いて若干不安になりながらも、人が話してる最中に勝手に右腕に噛み付き吸血していたティアによって綺麗になった服を再び汚さぬよう涎と自分の血でベタベタになった右腕を拭いた後、セレスさんを先頭に歩き出し


「では旦那様、今から私がこの扉をお開けいたしますが中には既にマリノ王国側のお客様達が揃っておりますので旦那様はそのまま真っ直ぐ壇上へとお上がりください。その後は……まあご自由にどうぞ」


「今セレスが分かるか分からないか程度の微妙な感じで、しかも一瞬だけ悪い笑みを浮かべてたのだけど…これってもしかしてソウジの影響かしら?」


いーや、多分だけどこの人昔は結構ヤンチャしてたタイプだね。絶対この家に頭のおかしな奴らが集まりすぎたことによって元ヤンの血が騒ぎ出しちゃったパターンだよ。


「一番頭のおかしな奴に言われとうないわ」


相変わらず俺の専属メイドとは思えない失礼な言葉が聞こえてきたのと同時に目の前の扉が開かれ、今まで聞いたことがないお上品な拍手が聞こえてきた。


あ~あ、目・目・目・目・目・目。どいつもこいつも嫌~な目。今までに感じたことがない、まるで人を品定めしてるかのような目。しかもその目は全てが俺へと向けられており、俺が前に進めばそれらも一緒に嫌らしくついてくる。


しかしそれもすぐに終わりを迎えた。何故ならば俺が壇上に用意されたマイクの前まで辿り着いたからだ。まあ嫌~な目はそのままなんだけど。


そんな気持ち悪い視線を一斉に受けながらも今回ばかりは守らなければいけない子達が何人かいるということで、顔には出さないものの嫌々マイクを手に取り


「まずは初めまして。私、本日よりこの国…ヴァイスシュタイン王国の国王になりましたソウジ・ヴァイスシュタインと申します。以後お見知りおきを」


それから数秒ほど頭を下げた後


「とまあ自己紹介はこのくらいにしておきまして、続きのご挨拶をする前に一つだけ皆様にお知らせがございます。と言いましても別に大したことではなくてですね、本日のパーティーは私が主催者ということで当家のメイドは勿論のことマリノ王国の宮殿で働いてるメイドに関しましては全員例外なく自由行動とさせていただきます。その為何か食べたい料理や飲み物等がある場合はご自分で取りに行かれるか、もしくは各自でお雇いになっている従者に頼むなりしてご対処ください」


まあそんなことをすれば、私は従者がいなければ何も出来ませんという自己紹介をしているようなものであり、ただの恥さらし行為だけど。


「あっ、言い忘れておりましたが既に料理の方は十分な量をご用意しておりますし、ブノワ様にメイドの件に関しましては許可を得ておりますのでご心配なく。……と、なんだか厳しいルールみたいなことを長々とお話してしまいましたが、皆様分からないことが多々あると思いますのでそこら辺は臨機応変にお願いいたします」

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