第75話:アベルは家(城)へ、宗司は家(日本)へ

なんてカッコつけた後に言うのもなんだが、今からやることは普段漁師がマグロ相手にやってることをただ魔法でやるだけ。つまりは電気ショック漁法である。


「……ん⁉ おい、なに人の隣でそんな物騒な黒い球を四つも生成してるんだよ‼ しかも全部坊主の右手の周りに浮いてるし、バチバチ言ってんぞ! 取り敢えずそれがなにか知らねえけど絶対にこっちに来るなよ!」


「うるせえぞ役立たず。今から数秒後にお前が言うクソ上司に感謝することになるからよく見とけ!」


そう言った後俺は飛行魔法を発動させ、あのキモイ魚がムキムキの手足で攻撃なんて出来ないよう今の自分が扱えるギリギリのスピードで後ろに回り込み


「えーと、これってどうすればいいんだ? ………なるほど、頭の中で軌道をイメージすればいいのか」


使い方が分からなくても勝手に頭の中に入ってくるとか相変わらず便利だな。


ということで早速頭の中で軌道をイメージし、攻撃の許可を出すと……確かにキモイ魚に向かって黒い球(電気魔法を帯びた)が中々のスピードで飛んで行ったのだが


「どこ狙ってやがんだこの下手くそ‼ それとあと七秒で数秒から数十秒になるぞクソ上司!」


おいおいマジかよ。この武器の扱いにはまだ慣れていないとはいえ、それを考慮してムキムキ魚の死角から放ったっていうのに余裕で避けられたぞ。しかもなんか走るスピード上がってね?


「るっせえ‼ 今のは練習だ、練習! その証拠にまだお前の声が聞こえてんだろうが‼ それと、あと七秒もあれば余裕だはボケ!」


なんたってティア相手に模擬戦してる時だとたったの一秒でも油断すれば木刀でぶん殴られるからな。油断してなくても毎回隙を突かれてぶん殴られるけど。


「なら早くどうにかしろ、このクソガキ! お前が空を飛んでるせいで怒り状態の混合魚が俺のことばっかり追いかけてきてんだぞ‼ ……やばっ、もしかして今の聞か―――」


アベルが何か言いかけていたがそんなの関係なしに俺は意識を完全に切り替えたことにより周りの音という音が全て聞こえなくなり、それのお陰かキモイ魚への嫌悪感が無くなった為再び後ろへと回り込み、今度は直接魚の背中に触れた状態で黒い球を生成し


「おいアベル! 大丈夫だと思うけど一応こいつから少し離れとけよ!」


「――――――‼」


なんて言ってるか聞こえないけど一応注意はしたからあとは知らね。……どうせアベルのことだし何とかなるだろ。


などという適当な判断を下した俺は早速黒い四つの球を顔、右腹、左腹、そして下腹へと高速で移動させると同時に速攻でぶつけると……それは俺が想像していたような電気ショックなんて生易しいものではなく、大爆発みたいなど派手な黒色の電気ショックが起こった。


「はあ⁉ おい、あのキモイ魚は無事なんだろうな‼ つか、何をどう判断したらあんな威力の爆発になるんだよ! 俺が頭の中で想像してたのはあの魚を気絶させられるレベルの電撃だぞ!」


あっ、ちなみにアベルはギリギリであの攻撃には巻き込まれずに済んだらしい。なんか凄い遠くで怒ってるようにも見えるけど、今は耳が聞こえないのでよく分からん。


などとアベルを見ながら考えていると突然空中に画面が現れ、ルナに似たSDキャラの頭の上に文字が書かれた吹き出しが出てきた。


『折角そんな大層なガントレットを着けてるのに、あんたがイメージしてた通りの威力で使ってたらダサそうだったから見た目だけ派手にしといたわよ。あっ、今後も絶対に威力を抑えた演出をしなきゃいけない時以外は同じでいくからよろしく。P.Sついでに保存魔法と盗難防止魔法もかけておきましたのでご安心を』


「『よろしく』じゃねえよ! ……つか最後の敬語使ってる人は一体誰なんだ?」


「―――ギョッ、――ギョ……ギョッ―、ギョ~~~」


ん? なんかの鳴き声が聞こえる……ってことは耳が戻ったのか。


そう思った俺は早速声の聞こえる方へと視線を動かしていくと……そこには白目を向いた状態で倒れているムキムキの手足を生やした魚が俺の足を掴もうとしていた。


そのあまりもの気持ち悪い姿と、そいつが自分の足を掴もうとしてきているという現実に脳が追い付かず、一瞬だけだが固まってしまったがティアとの模擬戦のおかげでスグに回復し


「………ぎゃああああああああああああああああああ‼‼‼‼‼」


そう叫びながら兎に角アベルの所に向かって走り出した。


「おいこの役立たず‼ 取り敢えず気絶はさせておいたから後はお前が何とかしろ! ………おい、なに砂浜で正座なんかしてんだよ! いいから早く動け、このクソ部下が! ってか誰だよその銀髪に近い薄水色でロングヘアーのメイドは! 遠いから後姿しか見えないけど絶対可愛いじゃん! ッテメェ、さっきから無視してんじゃねえぞ‼」


それからも大声で叫びながら走り続け、段々アベルと一緒にいるメイドの声が聞こえてきたかと思えば


「先ほどまでのご主人様に対する汚い言葉遣いに関してはお二人の仲ということで何も言いませんが、何故護衛でもあるはずの貴方が逃げ回っていたのでしょうか?」


「いやだから…坊主があの魚を生け捕りにしろとかいう無理難題を言い出して、流石に俺でも手加減しながら、しかも綺麗に倒すなんて絶対に無理だから早く武器を貸せって言ったのに貸してくれなかったから……」


「というかなぜ貴方は武器を持っていないんでしょうか。主な戦闘方法が魔法を使ったものではない場合、普通はなんらかの武器を持ち歩いていると思うのですが」


なんで砂浜で正座してるのかと思ったらリアに説教されてたのか。………よし、昨日の説教と朝早くから釣りを命じられた分の仕返しをしてやろう。


そう決めた俺は仕返しが一割、あの魚の気持ち悪さからくる怯えを少しでも和らげたいが九割の状況でリアに後ろから抱き着き


「マジ無理、ホントに無理! 俺もうあの魚に関わりたくないです」


「きゃっ♡」


「な~にが『きゃっ♡』だよ。俺達以外に人がいないからってイチャついてんじゃねえぞ」


小声で言えば聞こえないとでも思って口に出したのだろうが、アベルの声はバッチリと聞こえていた為リアは冷たい声で


「何故貴方はまだここにおられるのでしょうか。……というか折角ご主人様と二人っきりになれたのですから早く消えてください」


「いきなり酷くない⁉ 俺が一体お前らになにしたって言うんだよ」


「職務放棄に上司ディス、そして何より……お前邪魔」


「どう考えても一個目と三個目は坊主が悪いし、二個目はいつものことだろうが!」


そう言いながらアベルは立ち上がったので目の前に荷車を一台出してやり


「それであの魚を家まで運んできたら今回のことは許してやる。ああ、一応魔法で腐らないようにはしてあるけど出来るだけ早く帰って来いよ」


「いや普通にお前が持って帰れよ。……あとこんな所でリアーヌに抱き着いてるのは分かるけど(人がいないとはいえ外で抱き着くとか理解できねえ)、なんでエプロンの下に手を突っ込んでるんだよ」


「その方が温かいからに決まってんじゃん。……それより早く働けよ。じゃないとまた訓練場にぶち込むぞ」


この一言を聞いた瞬間アベルの顔は真っ青になり、凄い勢いで荷車を引っ張りながら走っていった。


「………何が『温かいからに決まってる』っです…か、んんっ♡ 最初は…普通に抱き、んぁっ、ついてきただけでした……のに、んんぁっ! 突然エプロンの下に手を、んっ、……はぁ、はぁ」


とまあ一応声を抑えてはいるものの、今のリアでは説明するのに時間が掛かりそうなので俺が代わりに説明すると、最初は驚かせようと思って後ろから抱き着いたのだがその時にリアが発した『きゃっ♡』が結構可愛かったのに加え、不安な時特有の誰かに抱き着いてりして安心したいという気持ちが混ざり合った結果……スカートの中に手を入れ、この後自分の部屋へ連れ込む為に下着の上から手――していたりする。


では何故自分の手をエプロンの下に入れたのかというと、リアの着ているメイド服はジャンパースカートみたいなやつなのでアベルの前で直接スカートの中に手を入れることは出来なかったからだ。それに俺にNTR趣味はないし。


その為まずエプロンで自分の右手を隠し、その後エプロンの下とスカートの中の空間を繋いだ。


「ねえ、このまま続きをしたいんだけど…リアはどう?」


「んっ、ですが…私はお二人に朝ご飯を、はぁ…届けに来ただけなの、うぅんっ♡」


「あ~、だからこっちに来たのね。――んまあ俺は後で食べるし、アベルには転移魔法で送っておくか」


そう言いながら俺は手――を止め、今度はリアを真正面から軽く抱きしめながらバスケットの中身を確認し………三つあるってことはリアも俺達と一緒に食べる予定だったってことか。……となれば別にリアが少しの間帰らなくても別に不審がられることはないし、あの大荷物を持ちながらならいくらアベルでも家に帰るには四時間くらいは掛かる。


よし、日本の家の方に行こう。


そう決めた俺は早速アベルの分の朝ご飯を送り、どうやら結構いいところで俺が手を止めていたらしく凄く切なそうな顔をしているリアを少し強めに抱きしめ、日本の家の玄関へと転移した。

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