第六章

第60話:雛飾り

朝ご飯も食べ終わり、特に急ぎの仕事などもなかった俺は子供達を集めてひな人形を飾るのを手伝ってもらっていた。


最初は和室に飾ろうかとも思ったのだが、やはり一番人が集まる場所にということで居間に飾ることにした。


「ねえソウジ、雛飾りっていうのは分かったけど、なんでこんな物を突然飾りだしたのかしら?」


「日本では3月3日にひな祭りっていう女の子のお祭りみたいなのがあるんだよ。んで、ひな人形を飾る理由としては子供を厄災から守り、将来幸せな家庭を築けるように願いを込めたお守りの意味が込められてるんだと」


正直今も昔もひな人形だな~っと、今年も乾燥剤の匂いがするな~くらいにしか思ってないけど。


ちなみに今回俺が用意したのは七段飾りの為高いところは先に人形を置き、下の方だけ子供達にお願いしていたのだがどうやらそれも終わったらしく


「一番上にいる男の人がお兄ちゃんで、その隣はミナお姉ちゃんです!」


「それじゃあ三段目の5人は私達かしら」


「じゃあ二段目の三人はティ姉ぇ、エメ姉ぇ、リア姉ぇです?」


「ですがそうしますとマイカ様がいなくなってしまいますが……」


リーザ的に二段目はメイドの三人で固めたかったんだろうけど、いつもティアはメイドの仕事なんてしてないんだからマイカと交換してやれよ。とは流石に言えないので一応予備で用意しておいた女の人形を二段目に置き


「ほら、これでマイカもいるだろ?」


「流石ソージ兄ぃ。じゃあ五段目の二人は大じーじと小じーじ」


大じーじはセレスさんのことだろうけど、小じーじは…多分アベルのことだよな。ぶっははははは、今度小じーじって呼んでやろう。


「じゃあ四段目にいる二人の男の人はブノワお爺ちゃんとレオンお爺ちゃん……お兄ちゃん、女の人の人形をもう二つくださいです」


「なあアリス、ちなみにその女の人の人形は誰なんだ?」


「もちろんレミアお婆ちゃんと、アンヌお婆ちゃんです」


俺の知っている四人と今アリスが言った四人が同一人物なら、ミナとリアの両親になるんだが


「丁度ソウジとティアがいない時にその四人が来た…というよりミナが家に呼んだのよ。この国の現状と貴方の修行の様子を見せるために」


「ってことは毎日家に来てたのか?」


俺はアリスに人形を渡しながらセリアにそう聞くと


「ブノワとレオンに関しては毎日自分達のお城に帰って行ったけど、レミアとアンヌは丸々二週間うちにいたわよ」


「なんともあの人達らしいな。アベルの親父さんは来なかったのか?」


「何かあればすぐに帰れるとはいえ国のトップが四人も出掛けているのにそれ以上は無理よ」


アベルの親父さんは騎士団のトップらしいし、その人までいないとなればちょっとした混乱が起きてもおかしくないか。


「それで、どうやったらマリノ王国の超重要人物と子供達が仲よくなるんだよ」


「最初はみんな頑張って対応してたのだけど、普通に考えてメイドの勉強を始めたばっかりの子達が上手く出来るわけもないじゃない? っで結局そこから色々あって最終的には可愛がってもらえるようになったってわけ」


「よくエメさんが許したな。あの人基本的には優しいけどメイドの勉強の時とかは結構厳しいのに」


「まあ最初はブノワ達が気にしないって言っても首を縦に振らなかったのだけど、レミアが『今後ソウジとミナが結婚すればこの子達は私達の孫みたいなものになるわけだし、別にいいわよ』って言ったら渋々ながらも納得したのよ」


孫にしてはちょっと大きすぎはしないか? とも思ったがミナの年齢×2として840歳。そんだけ歳を取ってれば感覚も鈍ってくるか。


「あっ、でもアンヌがその後に『この子達もいいけど、私は早くソウ君とリアーヌの子供が見たいなぁ~』って言ってたわよ」


「悪いがあと数年はセリア達で我慢してもらおう。んで、ブノワの親父達はどんな感じだったんだ?」


「あの二人は子供達にベタ甘よ。しかも家に来る度にお小遣いを渡すもんだから立場なんて関係なしにエメが一回お説教してたわ。誰一人として気にしてないみたいだったけど」


まるで孫にお小遣いを渡そうとする父親を叱る娘だな……。まあエメさんからしたらアリス達は子供みたいなものだし、ブノワの親父達はどうか知らないけどその奥さん達はかなり軽いから雰囲気に流されてつい、といった感じだろう。


「どうせエメさんが説教した後もこっそりお小遣いくれたんだろ? 『エメには内緒だよ~』とか言って」


「あら、なんで分かったの?」


「どこの世界も一緒ってことだよ。ちなみにいくら貰ったんだ?」


軽い気持ちで聞いてみるとセリアは右手を1、左手を0の形にしてきたので


「5人が二週間で貰った金額を合わせて10万ってことは…1人当たり1万7千円くらいか。王様達にしてはかなり控えめな値段じゃねえか」


「違うわよ、二週間毎日一人につき10万円。つまり二週間で一人当たり140万円、五人合わせて700万ね」


「140万だあ⁉ 貴族とかならまだしも普通の子供に持たせる金額じゃねえだろ。ちなみにその金はどうしたんだ?」


「あの子達ったらホント素直だから約束通りエメには何も言わなかったれけど、今度はリアーヌに報告するようになったのよ。それでまた注意して今度は誰にも言っちゃ駄目とか言われると面倒だからってことで毎回誰かにお金を貰ったらまずリアーヌに全額渡して、そこから適正価格を渡すっていうことにしたの。もちろん残りのお金は大切に保管してるわよ」


服なんかは全員俺の金というか経費で買えるようにしてるし、今はそれが一番良さそうだな。もう少しアリス達が成長してきたらあれだけど、暫くは給料も同じ形にしてもらってお小遣い制にした方が良さそうだな。


「ちなみにセリアはどうしてるんだ? 基本外に出なかったとはいえ金銭感覚はお嬢様だし自己管理か?」


「失礼ね、別に元お嬢様だからってお金遣いが荒いわけじゃないのよ。私もあの子達と同じにしてもらってるわ。それにこっちで高価な服とかを買うよりソウジの世界の物を買った方がかなり安く済むしね」


「セコ」


「私は与えられた選択肢の中から最善のものを選んでいるだけなんだから少し言い方に気を付けなさい。……ちなみに私は何枚か新しい下着も買ったのだけれど…見たい?」


そう言いながらセリアは自分のスカートを少しずつたくし上げ始めた瞬間、彼女の頭の上にとある人物の手が乗せられ


「今日は私の番ですので勝手にご主人様を誘惑しようとするのはお止めください」


なにその今日は私の番って。まさかとは思うけど二日連続でしなきゃいけない感じなの?


「優しく頭を撫でながら、しかも笑顔で脅されると凄く怖いから止めて欲しいのだけれど」


「ミナも一緒ってことは明日の件を伝えに行くのか?」


「はい、流石に今回のことはすぐにでも話し合う必要がありますので」


セリアを含め子供達以外には警備室にある監視カメラの録画で見たことは全て共有済みである。


「俺も後でギルドに行って明日うちに誰か人を寄越すよう伝えておくわ」


明日の緊急会議の内容はマリノ王国だけでなくギルドも無関係ではいられない可能性がある程のものだということはミナも理解しているため真面目な顔で一度頷き、リアを連れて玄関へと向かっていった。


それを見送った後セリアは思い出したかのような顔をし


「そういえばこのひな人形ってそれぞれに地位というか、役割みたいなものはあるのかしら?」


「さ~、俺もひな人形に関してはそんなに詳しいわけじゃないからなあ……」


ここで一番上の段にある二人の人形は夫婦だって教えたら誰がお雛様かで揉めるのは目に見えているので絶対に言えない。


もちろん揉めるのは子供達…ではなくて、ミナ・リア・セリアの三人である。

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