第56話:久々の我が家 (下)

どうやら俺がセリアを抱っこしたと同時にティアが残りの子供達を家の中へ連れて行ったようで、キスをしてるところは見られずに済んだ。


「気が済んだならそろそろ家の中に入るぞ。普通に寒い」


「それなら私がこのまま抱き着いててあげる。これで温かいでしょ?」


セリアがギュッと抱き着いてきたため胸が押し付けられている状態なのだが……スルーしよ、スルー。


「別に私は良いのよ」


元から三人のことは好きだったし将来的には結婚するつもりだったけど、元国王共を殺す時に完全に気持ちが固まったせいで色々と抑えられなくなりつつあるぞ。


「……そのうちな」


「うふふふ、初めて私を抱きしめた時や膝の上に座った時はまだ手を出してくれなさそうだったのに…この二週間で何かあったのかしら?」


「あったかもしれないし、なかったかもしれないし」


「なによそれ。全然教える気ないじゃない」


その後も誤魔化しながら歩き続け、久々の我が家へと足を踏み入れると玄関で待っていたらしいセレスさんが


「お帰りなさいませ旦那様」


「俺がいなかった間何も問題ありませんでしたか?」


「はい。旦那様が張られた結界のお陰でこの宮殿への被害はゼロ、街の方も特に問題はありませんでした」


「こう見えてセレスは結構強いのよ。少なくともこのお城の門兵より強いのは確かね」


この人ってそんなに強いの⁉ いつもは孫と遊んでるお爺ちゃんみたいなのに?


「若い頃に比べれば大分衰えましたのでお嬢様が仰っるほどではないですよ。ですので今後は旦那様が私を守ってくださると助かります」


「いやいやいや。少なくとも今はセレスさんの方がまだ強いんですからちゃんと俺のことを守ってくださいよ。っていうかそれも執事の仕事でしょ⁉」


「決してそんなことはありません。その証拠に旦那様の雰囲気が少し変わっておられますよ。それから私は執事でありこのお城に住まわれている皆様の爺やでもありますので」


パパパ パッパッパ~♪ セレスさんは正式に俺達のお爺ちゃんになった。


とか頭の中でふざけながら居間へと向かうと


「おっ、ちょっと雰囲気っていうか纏ってるオーラーが変わったじゃねえか坊主」


「その為に二週間も家を出ておったんじゃから当り前じゃろ。それでも全然足らんがの」


「これ以上俺に何をさせる気だ。短い期間とはいえ結構頑張ったぞ」


そんな俺の質問に答えてくれたのは今一番会いたかったような、会いたくなかったような子達だった。


「確かに今のソウジ様には強者と分かる程のオーラが纏わり始めましたが国王としてのオーラなどはまだまだ。それにそれらを何時でもON・OFFの切り替えが出来ないようでは全然駄目です」


「ですがそれらを身に着けるのは簡単ではありません。特に国王としてのオーラといものはそれ相応の行動をし続ける必要がありますし、お嬢様が仰られたON・OFFの件に関しましてはもはや感覚の域。私達が教えてどうこうなるものではありません」


「……そんなことよりさぁ、俺が頼んどいた件はどうなったんだ?」


ここに子供達がいないとはいえセリアを抱っこしている状態で直接聞くものではないので少しぼかして聞いてみると


「その前に何か言うことがあるんじゃないですか? ソウジ様」


「………突然いなくなってすいませんでした」


「それよりも先に言うことがありますよね? ご主人様」


やっべー、久々に出ましたよ女の子による難問コーナー!


さあ、今回も全く答えが分かりません。ということでまずは抱っこしているセリアに小声で聞いてみましょう。


「(おい、一体何が正解なんだ?)」


「そういえば私もまだ言ってもらってないわね」


なんだよそのヒントのようで全く使えないヒントみたいなやつは。


ということで次はアベルに聞いてみましょう。なんと今回は前回と違って念話を使えるようになっているのでかなり楽に答えが分かるのではないでしょうか。


(今すぐ答えを教えろアベル)


(ん~、これに関しては自分で気付かないと意味がないんじゃないか? じゃないとまた同じことになりそうだし)


(使えねえ部下だな、おい。既に例の訓練場は完成してるから覚悟しとけよ)


(待て待て待て! お前と師匠が書いた計画書を見たがあれはやべーだろ。使用例:フィールドを山の中に設定し数日間サバイバル生活。時間、場所全てランダムでモンスターや盗賊が出現可能ってなんだよ⁉)


そう、俺達が作った例の訓練場はフィールドや敵は全て仮想の物なのに本物と一切変わらないという優れものなのだ。


どういう仕組みかって? そんなの俺も知らねえよ。どうせ俺のチート魔法が色々なってそうなるんだろ……多分。


(寝てる時でも普通に襲われる可能性があるから気を付けろよ。攻撃が当たっても死なないとはいえ、それ相応の痛みを感じるようにする予定だから)


緊急時の為に自動回復システムも組み込まれているので安心してお使いいただけます。なおトラウマが残る可能性がありますが当局は一切の責任を負いません。


(ヒント! ヒントやるから落ち着け坊主!)


(どんだけ答えを教えたくないんだよ)


(お前が一回も言ったことないのがいけないんだろうが。あれって癖かなんかなのか?)


俺が一回も言ったことのない言葉? そんなの……あるな一つだけ。タイミング的にはバッチリだし。


(あれは癖っていうか、子供の頃から言わないで生きてきたからそれに慣れてるせいで言いたくないんだよ)


(分かったなら早く言え。じゃなきゃ抱っこされてるセリアは兎も角、あの二人はどんどん不機嫌になっていくぞ)


帰ってきて早々説教とか勘弁してほしいんだけど。………大人しく言おう。


「ただいま」


「おかえりなさいませ、ソウジ様」


「おかえりなさいませ、ご主人様」


「おかえりなさい、ソウジ…ちゅ♡」


最後に返事をしてきたセリアは俺が抱っこしてやっていることをいいことにキスしてきたのだが、それを見たミナとリアの二人はこっちに近づいて来たかと思えば……同じように軽くキスをしてきた。


色々と我慢してる最中にそういうことは止めて欲しいんだけど。……あとセリアはさり気なく自分の胸をぐにゅぐにゅ押し付けてくるのを止めろ、というか降りてくれ。


「マイカとエメさんはどこにいるんだ? 俺に失望して仕事を辞めたのか?」


「なわけなかろう。二人ならそこにおるわい」


そうティアが言いながら指さした場所はキッチンだったためそちらに行ってみると……普通にお昼ご飯の用意をしていたようで、俺が近づいてきたことに気付くと一度手を止め


「おかえりなさいませ旦那様。もう少しでお昼のご用意が出来ますので、もう少々お待ちくださいませ」


「おかえり、ソウジ君。お昼はセリアちゃん達に代わって私が手伝ってるけど味は保証するから安心してね」


「あっ、はい……。よろしくお願いします」


別にセリア達みたいな反応をしてほしかったわけではないのだが、あまりにも普段通りだったので少し拍子抜けしてしまい中途半端な返事になってしまった。


「この二人ったらソウジがいなくなった日もこんな感じだったのよ。私なんて心配でしかたなかったっていうのに」


「お嬢様。確かにご自分が大切に思われている方が危険な目にあっていたり、長期間会えないとなると心配になるお気持ちはよく分かります。ですがそういう時こそ普段通りに行動している人が重要になってくるのですよ」


「予想外のことが起こった時こそ誰か一人でも普段通りでいてくれることによって自然と周りも落ち着いていくっていうのは結構有名な話だな。ちなみにマイカが普段通りなのは同じ理由か?」


自分で聞くのもどうかと思ったのだが、やはり気になってしょうがないので聞いてみると


「旦那さんの帰りを黙って待っててあげるのがいい奥さんと言われる条件の一つだと私は思うんだよね。もちろんセリアちゃんみたいに心配するのもその一つだとは思うけれど」


言ってることは素晴らしいのですが一体マイカさんはいつ、誰の奥さんになったのでしょうか?

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