第47話:決意

やることは決まったが、落ちている刀を拾っているところをご丁寧に待ってくれているとも思えない……。となれば自分から来てもらうしかないでしょ!


「来い、ムラマサ」


「仲間を呼ぶには少し遅かったんじゃないか―――」


俺がムラマサのことを呼ぶと、ご丁寧に鞘から抜かれた状況で俺の右手へと移動してきてくれたので、そのまま一番近くにいた元国王の首を力任せに斬り落とした。


そこまでは良かったのだが、突然吐き気と共に自問自答が始まった。


「うえ゛っ、おぅえ゛ーーー、はぁはぁはぁ………」


今俺は何をした?


目の前の男の首を切り落とした。


それはどんな感触だった?


最初はスッと刀が入ったかと思ったら、いきなり抵抗を感じるようになった。だがそれも長くは続かず、気付いたら目の前から顔が無くなっていた。


今どんな臭いがする?


人間の血と脂の臭いがする。それも凄く近くから……。


それはそうだろ。お前の顔はもちろん体中にあいつの返り血が付いてるんだからな……。ほら、べっとりしてて生暖かい何かを感じるだろう?


パッと見た感じここには五十人くらいいるな。性別関係なく大人から子供まで選り取り見取り……。さあ次は誰を殺すんだ?


…………。


これ以上殺したくないなら宮殿のみんなを見捨てて日本に帰るしかないな。数時間前にベッドでイチャイチャしていたミナやリアは勿論、セリアも見捨ててな。


…………。


「おいおい、こいつ一人殺しただけでゲロってやがるぜ。こんな奴なら余裕で殺せ―――」


また一人殺した。こいつも首を一発だ。


「アホだな~、いくら雑魚とはいえ舐めてかかるからそうなるんだよ。ほら、俺達は一斉に行くぞ!」


そう一人が言うと周りにいた奴らが一斉にこちらに向かって走ってきたのだが、戦闘素人の俺が集団相手の立ち回りなど知るはずもないので適当に避けながら闇雲に刀を振るい続けた。


すると一人は体中から血を吹き出しながら倒れており、また一人は何を言っているのか分からない声を出しながら俺を睨みつけたまま死んでいき、また一人は


「うわあぁぁぁぁぁ‼ 来るな、来るな、来るな!」


「…………」


「こっ、殺すなら俺じゃなくこいつを殺せ!」


近くに腰を抜かして動けなくなっている女を無理やり立たせ、盾にしながらそう言ってきたので俺は刀を突き刺して串刺し状態から横にスライドさせた。


無意識に魔力を大量に流していたようで、さっきの元国王の首を斬った時とは比べ物にならないくらい楽に斬れた。


そこからは結界の中を逃げ回る奴らを片っ端から殺し続けた。許しを請おうが、親が子供だけはと言おうが、子供が泣き叫ぼうが全部無視して最後の一人を殺すまでそれを続けた。






生き残りがいないことを確認する為にグルっと一周見回すと……辺り一面には死体の山が、血の海が広がっていた。特に死体に関しては俺の刀の扱いが下手なせいで綺麗な死体もあれば、ぐちゃぐちゃの死体もあり、それを見た俺は再び一人で吐き始めた。



「っおえ゛、うぶぇ……うっ、う゛ぶえぇ―――、はぁはぁはぁ、誰か……おえ゛ぇ、はぁはぁ……」


どうやら吐いてるうちに頭が冷静になってきたらしく…自分が今一人だということ、そして周りには死体しかないことに気付いたことによりさっきとは別の恐怖に襲われ始めていたその時……誰かが俺の前と後ろから抱きしめてきた。


「ミナと……後ろから抱きしめてるのはリアか?」


「まったく、なんでこんな無茶をなさったのですか」


リアのことだから怒るか呆れるかすると思っていたのだがそんなことは一切なく、逆に優しい声でそう聞いてきた。


「何も考えずに一人で来たら左腕を斬られっちゃってさ……色々あってこうなったは」


「色々って、ソウジ様……。私達はそこが一番知りたいのですが」


「まず初めに元国王を殺したらそのことによるショックでゲロって……もうみんなを見捨てて日本に逃げるかとか、ミナ達に助けを求めるかとか、色々考えて出した答えが……国王になるどうこう関係なしに取り敢えず俺の家族を、好きな女の子達を守る為に邪魔者は全員殺す……だった」


遅かれ早かれあいつらを殺しておかなければ俺達に被害が及ぶことは無意識に気付いていたのだろう。じゃなきゃ怯えながらゲロ吐いてるうちに殺されてただろうし。


不思議なことに自分が殺されるかもしれないという恐怖心は一切なかったしな。


「も~う。いつもは子供っぽかったり、甘えん坊だったりするのに…たまに凄くカッコよくなるのは何なんですか? そんなのズルいですよ……」


「泣かれているご主人様、大人なご主人様、カッコいいご主人様……。一日に三つも見せてくださるとは随分と気前がよろしいですね」


「一つ目と三つ目は狙ってやったわけじゃないから忘れろ。特に一つ目」


恐らくリアが言った大人なっていうのはベッドでのイチャイチャのことを言っているのだろう。まああれは狙ってやったわけだし、そう思ってもらえてなかったら逆にショックである。


それからもずっと二人が抱き着いてくれてるお陰かは分からないが、段々と落ち着いてきた為今後の予定を頭の中で組み立てていると


「ふ~う。左腕の治療は終わりましたよご主人様」


「ダメ元で聞くけど俺の左腕はもうくっ付けられない感じ?」


そう聞くとリアは気持ち抱きしめる力を強めてきて


「今のご主人様の左腕は死体のようなもの。死んだ人間を生き返らせられないのと一緒でそれを元に戻すのは不可能です」


「そうか……。じゃあそこら辺に俺の腕が落ちてるだろうから探しといてくんね? いつもの腕時計が付いてるはずだからすぐ分かると思うし」


「そんなこと言われなくともやるに決まってるじゃないですか! ソウジ様はもう少し自分の体を大事にしてください!」


ミナのやつ、さっきまでは普段通りだったのにいきなりどうしたんだ?


「一応そこら辺に転がってる死体関係は全部魔法で時間を止めてあるからどっかに纏めて保存しといてくれ。ついでに全員いるかの確認とセリアの偽装死に使えそうな遺体を選んでおいてくれ」


「ご主人様?」


「んじゃ、あとはよろしく」


リアは何かを察したようだがそれを無視し、俺は警備室へと転移した。






それから俺は警備室で一つお願いをした後、この国の門近くに転移しティアを念話で呼び出した。


「まさかお主が両足どころか全身をこの国に突っ込んでしもうとはのう」


「この状況で一言目がそれか。少しくらい心配しろよ」


「少し前にも言ったが無茶が出来るのは今だけじゃ。まさか本当に片腕をなくすとは思わんかったがの」


そう言いながらティアは笑ってきたが不思議と嫌な感じはしなかった。


「残念ながらお前の出番はなかったけどな」


「……ちゃんとお主が戦っておるところは見ておったから知っておる。全く酷い動きじゃったの~う」


「えっ⁉ いつから見てたんだ?」


「お主が国王を殺して吐いておるところからじゃの」


結構最初っからじゃねえかよ。


「だったら助け……るわけないか。どうせお前のことだから本当に危なくなるまで助ける気なんてなかったんだろ?」


「今回はお主の気持ちを確かめたかったから特別じゃ……。そんなことより血まみれの服をなんとかせい」


相変わらず俺の護衛らしくない専属メイドだなこいつ。まあそんなところも気に入ってるんだけど。


そんなことを考えながら血まみれの服と自分の体の表面部分のみ時間を戻し、左袖が風になびいているのを横目に今後の予定を立て始めた。

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