第4話:ギルドに行こう
駄女神が現れてから一日。俺は完成したばかりの城を探検していた。
「俺が作ったんだから当たり前だけど、しっかりイメージ通りだな。……まあ、城の間取りなんて一切知らないし、デザインのセンスもないからネットで調べて気に入ったやつを組み合わせただけだけど」
だが全て丸パクリというわけではない。ちゃんと拘った場所はいくつかある。
その一つが和室だ。やはり異世界転生系主人公の城といえば一部屋だけ和室があるのはお決まりだろ? そして和室の前だけだが庭はちゃんと日本庭園にしてある。ちなみに謁見の間と玉座の間は適当にネットにあったのを丸パクリした。
なんでかって? そんな所を使わなきゃいけないような仕事をしたくないからに決まってるだろ。まあその前に俺一人じゃ間違いなくそんな仕事出来ないだろうけど。……あれ? これってかなりまずくないか。
だってそうだろ? 昨日まで適当に学生してた人間がいきなり政治だの駆け引きだの出来ると思うか? 普通に無理だ。というか……考え出したら問題点がどんどん出てきたぞ。
まず国を作りたいなら国民が必要だ。しかもただの国民だけでなく、農業を仕事にしている人や商業を仕事にしている人など、様々な人が必要になる。しかしこんな何も無い国に住もうなんて人はまずいないだろうし、伝手もなければラノベの主人公みたいな旨い展開も期待できない。
もしそんな旨すぎる展開があったとしても俺だけでは知識不足過ぎて絶対に上手くいかないだろう。つまり、異世界転生系では鉄板の宰相とか近衛兵とかその他諸々の協力者は必須レベルなのだ。特に宰相選びはかなり重要である。なぜなら宰相というのはその国の王族の次に偉いと言ってもいい程の人物だからだ。
しかも宰相は君主と一番仕事の話をする役職。つまりそれを利用して君主を自分に都合の良い傀儡にしたり、内密に国を乗っ取ることだって出来てしまうのだ。そのため宰相はかなり信頼出来る人じゃなきゃいけない。
あれ? でもよくよく考えたら宰相だけじゃなくて自分の周りに置く人は全員そうじゃなきゃダメじゃね。
………よーし、一旦国を作るのは諦めよう。それに何をするにしてもまずは金が必要だしな。当分は金を集めることにしよう。
取り敢えず問題を先送りすることにした俺は空中にメニュー画面を出し……この世界の地図を表示させた。
ここから一番近い国は東側にあるボハニアって国だな。ちなみに西側は海を挟んで小さい無人島が、北側にはマリノという国があるようだが今回は行く気がないので無視しよう。
さて、行先が決まったのは良いのだがどうやって行こう。みんなの憧れ飛行魔法を使って行ってもいいのだが、今回の目的のことを考えると自分の身体能力を確かめておきたい感もある。……よし、適当に走ったり、飛んだりしながら向かうとするか。
そう決めてから数分後……
この世界の基準が分からないから何とも言えないが、あの駄女神にしては丁度いい強化具合ではないだろうか。正直軽く走っただけで世界一周とかするんじゃないかとか思っていたのだが、全然そんなことはなかった。ではどのくらい強化されたのかというと、分かりやすく例えるなら初代プリ○ュアぐらいである。
などと一人で考えながら走り続けること約一分。ボハニアに到着した。
この世界に来て初めて国と呼ばれる場所に来たのだが……露店とかお店は普通にあるみたいだけど、何この空気。凄く重いっていうか、暗くないか?……頼むから一部の上層階級の人間が悪さしてるとかいうパターンは辞めてくれよ。俺はそんな面倒な国と関わり合いになりたくないぞ。
だがそんな俺の願いは虚しく、予想は確信に変わりつつあった。だってあれから十分ぐらい歩いてるけど、すれ違う人の殆どが何かに怯えてる感じだったもん。それに加えてその人達は全員服がボロイというか、やけに貧乏っぽかった。………まあ駄女神が言っていたことも合わせるとほぼ当たりだな。
というのも昨日、駄女神にこの世界について聞いたら
『この世界は中世ヨーロッパとほとんど同じって考えていいわよ。いわゆる中世ヨーロッパ風的な? だから現代日本なんかとは比べ物にならないくらい、派手に権力を振りかざしてる王とかもいるわよ』
とか言っていたがそのことは一旦忘れよう。何故なら今回の目的地であるギルドに着いたからである。やっぱり異世界で金を稼ぐならギルドがお約束だろ?
ということでギルドの扉を開いて中に入ると外の重い空気とは一転、なんでか凄く明るかった。
これはどういうことだ? どう考えても外と中で雰囲気が違いすぎるだろ。あまりの空気の重さに耐えられなくなって無意識に転移魔法でも使ったとか? いや、流石にそれはないか。……分からないことを考えても無駄だし、ささっと受付に並ぼう。
さて、このギルドには受け付けが三つあるらしくそれぞれに受付嬢が一人ずついる。右から美少女、ふんわり系お姉さん、五十歳くらいのおばさんである。もちろん俺が並ぶのは五十歳くらいのおばさんの所だ。言っておくが別に俺は熟女好きというわけではない。
なんて一人で言い訳をしていると、俺の番が来たらしく
「次にお待ちの方どうぞ」
「ん? はーい」
俺はそう返事をしながら受付窓口に近づくと
「おや、私はここで結構働いているけど初めて見る顔だね。どこか違う国から来たのかい?」
「はい。最近田舎から出てきたばかりなんでギルドについて教えてもらってもいいですか?」
「そういうことならどんどん聞いてくれていいよ。何が知りたいんだい?」
「ありがとうございます。それじゃあまずは依頼の受け方を教えてほしんですけど」
「ん? そこから聞くってことは、結構な田舎にでもいたのかい?」
「あはははは。お恥ずかしながらそうなんですよ。もう山と畑しか無いようなド田舎だったんで、ギルドを見るのも今回が初めてで」
流石に『実は違う世界から来たんですよ』なんて言っても信じてもらえるわけがないので適当に言ったけど怪しまれてないよな?
「なるほどね。じゃあまずは依頼の受け方だけど……」
なんとか怪しまれずにギルドについてある程度の情報を得ることができた。簡単にここまでの情報をまとめると
・ギルドは色んな場所にある
・クエストを受けるにはギルドに所属しなければならない
・受けられる依頼は冒険者自身のランクと同じか、それ以下のランクの依頼しか受けられない
・モンスター討伐依頼の報酬は、指定された部位を持って帰ってくると支払われる
・モンスターによっては、モンスター丸ごと売ることもできる
・登録時の実力に応じてスタートするランクは変わる(最高でもBランクから)
・ランクはギルドの判断で昇格する
・ランクは上から
『Sランク 一流冒険者 ……主な依頼はギルドから直接お願いされたもの』
『Aランク 超上級冒険者……主な依頼は上級モンスターの討伐』
『Bランク 上級冒険者 ……主な依頼はモンスターの討伐や盗賊退治』
『Cランク 中級冒険者 ……主な依頼は雑魚モンスターの討伐など』
『Dランク 初級冒険者 ……主な依頼は薬草調達や、探し物』
ということだった。だがもう少しだけ知りたいことがある俺は
「ここまでは分かったんですけど、モンスターの買取ってギルドに登録してないと出来ないですか?」
というのも今から登録しても最高でBランク。つまりそれ以上の依頼は出来ない=手っ取り早く金を稼げない。という図式が出来上がるのだ。それは正直だるい。
「全然そんなことはないよ。ランクがあるのは冒険者のレベルにあった依頼をこなしてもらって、徐々に成長してもらいたいっていう考えから出来た制度だしね」
「なるほど。じゃあ最後にもう一つだけ。ギルドと各国の関係はどうなってるんですか?」
「……アンタ、ただの田舎者じゃないね?」
「いや、本当にただの田舎者ですよ。それで、どうなんですか?」
ここまでの話を聞いての予測だが、ギルドというのは一つの国と同等かそれ以上の権力を持っているのではないだろうか。というのもギルドには冒険者という戦力が沢山いるからだ。それに加えこの予測が正しければ外との空気の違いも納得できる。これが当たりならどんな国だろうとそう簡単に手を出すことは出来ないだろう。
「まあ冒険者っていうのは訳ありの人も多いからね。これ以上は何も聞かないよ。……ギルドは一つの国と同等か、それ以上という認識が一般的だよ。あとはアンタの予測通りだろうさ」
「そうですか……。色々と丁寧に教えていただきありがとうございます。これからもお世話になるかと思いますので、その時はよろしくお願いします」
俺はおばちゃんにそうお礼を言い、受付を離れた。
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