第98話「できればスルーしたかった」
「あっ」
ふいにこちらを向いた最強主人公ちゃんの口から声が漏れた。
「問:こんな時、踏み台転生者ならどんな反応を見せるのが最適か答えなさい。(配点:10点)」
思わず脳内にそんなテロップが浮かぶほどに緊急事態だった。いや、居るかもしれないとは思ったが、心構えする間もなく出会った上に気づかれるとは、普通思わないだろう。とは言え、無視というのはありえない。おっぱいお化けの入居準備を手伝って貰っているのだから。
「そうか、お前も居たのか。すまんな手伝わせて」
当たり障りのない礼の言葉を何とか絞り出せたとは思う。
「え。いえ、そんなこと」
「では引き続きよろしく頼む」
更に最強主人公ちゃんが最後まで答え終えるより早く被せ気味に言って、そのまま離脱。チキンと笑いたくば笑え。ドロシーの一件が既にある。ここで普通に会話してあの二の舞になったらシャレにならない。
「あの時は二人きりだったが――」
今回は他の教え子に目撃される可能性だってあるのだ。
「しかし」
今思うと、国境に向かうメンバーを全員男にしておけば最強主人公ちゃんが紛れ込むこともなかったし、今ラッキースケベの陰に怯え警戒する必要もなかった気がする。後出しの意見ではあるし、その場合国境に向かう行軍がすごく暑苦しい感じになった可能性は否めないが。
「とにかく、今は一刻も早く作業を終えねばな」
幸いにも人手はあるのだ。魔法での肉体強化も辞さず効率化すれば、あっという間に終わる筈。
「さて」
足を止め周囲を見回すと、空いたドアの向こうにある部屋の中はいくつもの家具が設置済みで、後方を振り返ると、本や折りたたまれた布らしきものが目に留まる。
「なるほど、家具の搬入はいつの間にかほぼ済んで、残すは家具の中身のみと言ったところか」
あれらを運んで家具に収めてゆけば、おそらく作業は終わる。入居者であるおっぱいお化け達は元竜。人としての荷物などないのだから、運び込んでいるのも生活に必要最低限と思しき品と、それで不自然に見えないようにするための品。元々搬入するモノの総数が少ないのだ。
「悩むより動くべき、とでも言ったところか」
俺は折りたたまれた布に手を伸ばし。
「おっと、っ?!」
持ち上げて形が崩れ、広げる形になったことで、知る。ただたたまれた布だと思ったモノが女物の下着であったことを。
「よりによって――」
このタイミングでこんなえげつない罠を用意するか、作者め。
「ヤバい」
そう思った時には、反射的に身体が動いていた。目撃者がいないか素早く周囲を見回し。
「よし」
綺麗にたたむ余裕もなかったことから素早く服の中にしまい込む。魔法で身体強化しておいて本当に良かった。
「あとは――」
カムフラージュに置いてあった本の方を運んで本棚か何かに収めるだけだ。俺は何とか危険を回避したのだった。
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