第11話「まずは謝罪から」*


「いかんな。また竜と戦わねばならぬかもしれぬと言うのに」


 副教官は今も出発の準備に奔走してくれているのだ。過去の戦いを思い出して、竜と戦うところをシュミレーションするならともかく、ただ感傷に浸るとは。


「確か本棚に魔物の生態について書かれた本があったはず」


 念のためにおさらいしておこう、あとは――。


「あ」


 何かなかったかなと考えようとしたところで、二件目のコメントの存在に俺は気づいた。


「すいませんでした、すぐ直すように言っておきます」


 二件目は誤字報告だった。この創作物の世界に生きている俺は気づけなかったが、作者がどうやら誤字をやらかしたらしい。


「それと、応援ありがとうございます」


 ただの誤字指摘だけでなくて救われもしたし、そうなってくると現金なモノだ。


「こう、なにかもっとこの世界を見ている方々が喜んでもらえるような演出とかをすべきか」


 俺もついついそんなことを考えてしまう。


「トレンド要素をぶち込むとか、可愛い女の子とかもふもふした獣っぽいのを登場させるとか……もふもふならペットを飼うというのが安易だが現実味がありそうだよな」


 その場合、どんな動物を飼うかで一つの戦争が勃発しそうな気もするが。


「いや、よくよく考えたらこんなことを考えてる場合でもないな」


 一粒で二度も三度も美味しくなるのを狙って、「犬耳猫しっぽ巨乳美少女」を登場させるとか明らかに駄目なアイデアに至ったところで我に返った俺は頭を振ると、一冊の書物に手を伸ばした。


「魔物の生態」


 何の飾り気もない分厚い本の背にかかれたタイトルは表装同様シンプルそのもので、俺は本を開くと、目次を見てから竜の項目の所までページをめくった。


『【竜】竜とは魔物の階位の一つであり、大国を滅ぼしうる力をもつ存在である。どのような種族であっても特定の形状に近しい姿をしていると言う共通点はあるものの、目撃者して生き残った者は少なく、生態は殆ど謎に包まれている』


 まぁ、内容は無いに等しい。


「当然と言えば当然、なんだがな」


 俺はあの竜のことを竜と公開していない訳なので、この目撃者にはカウントされていないし、そも、この本が書かれたのがあの嫌な竜を殺す前なのだ。


「が、今回は事情が異なる」


 隣国は実在する竜に被害を受けるだろうから、かの国の隣国はだいたい竜の存在を把握していると思う。


「この国に向かったとわかって被害がないと判れば――」


 この国の誰かが何とかしたということになり、真っ先に疑われるのはたぶん俺だ。


「まず間違いなく押しかけてくるな。こういう本の著者が」


 いや、学者だけじゃないだろう。メシの種と言う意味なら歌の題材にと作詞家や作曲家、あなたの話が書きたいと作家だって押し寄せてくる。


「その前に新聞記者だろうが」


 正直功績ごと全部誰かに押し付けたいが、無理なのはわかっている。


「最強主人公ちゃん、早く俺を踏み台にしてくれ……」


 願わくは、一刻も早くこの状況からの脱出を。最強主人公ちゃんが俺の前に現れたからにはそれほど先のことではないと思っている。願っている。そうであろうと、そうなって欲しいと。









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