第122話 謎解きは混浴の湯屋の中で
真冬の肩越しに、死織が湯屋の中をのぞくと、そこには、女湯と男湯の仕切りはなく、眼前にはだだっ広い板の間に
「あり? 真冬殿と死織んじゃねえか」
脱ごうとしていたのは、なんと金太郎。二人に気づいて目を丸くしている。
「二人おそろいで、こんなところに、何しに来たの?」
「そりゃあ……」死織は謎解きのことは適当にごまかす。「朝湯をたのしみにさ」
すでに昼前だが。
「おう、いいねえ。ここの湯はいいぜぇ。なにせ入り込み湯(混浴)だからさ。なんか女のいい匂いがしやがる」
金太郎はけけけけけと変な笑い声をたてた。
「あたしは遠慮します」
番台のまえで回れ右しようとする真冬の手を、死織はさっとつかまえ、シリアスな顔でたずねた。
「謎解きは、しなくていいのかよ?」
「いや、でも」
中を指さす真冬。そこでは金太郎が長着を籠に放り込み、襦袢の紐を解き始めている。
「あ、安心して」金太郎は薄く笑う。「俺は
言いつつ、ぱっと脱いで上半身裸になる。
さすがは侍。鍛え抜かれた肩の筋肉と、引き締まった腹筋が凄い。腰のところには白い六尺褌がきりりと、相撲取りみたいに締められている。
「よし、行こう」
死織は真冬の肩をぽんと叩いて、番台のおばあちゃんに二人分の湯銭を払う。
「いやですー。湯文字だと、それってトップレスじゃないですか」
と泣き言をいう真冬をひっぱって、脱衣所へあがる。
「いや、でも、ここに暗号があるなら、俺だけだと解読できないし」
なんか嬉しそうな金太郎のとなりで、死織はコスチューム・チェンジ。一気に全裸になった。
「おおっ」金太郎が拍手する。「さすが死織ん、いい脱ぎっぷりだ」
そうしておいて、真冬の方を期待した目でみつめて、事の成り行きを待つ。
あきらめた様子の真冬は、不機嫌なため息をついて、腰の刀を壁の刀掛けに二本とも乗せた。
そして、真剣な目を宙に泳がせる。スタート画面で、自分のコスチュームを確認しているようだ。
そして、ぱちぱちと瞬きしてボタンを押す。次の瞬間、彼女の衣装が純白の割烹着にかわった。
「え、それってあり?」
死織と金太郎の声がかぶる。
「割烹着は、明治のころに作られたのですが、日本で考案されたので、りっぱな和服です」
ふわりとした白衣が、真冬の素肌のうえにかぶさる。やわらかい布地が、彼女の身体の線をやさしく包み込み、肩の丸みとか、胸の張りとかが何となくうかがえ、真冬がグラビア・アイドルなみにスタイルがいいのがわかる。きっとあの白い布地のしたで、ぎゅっとくびれたウエストとぺったんこなお腹が息づいているにちがいない。
大きく開いた胸元から、豊かな胸の谷間がぎりぎりのぞける。
裾は長めだが、それでも膝上。白い脛と小さな膝小僧、腿の下半分くらいしか見えないのだが、彼女の細い美脚は通常は袴に隠れてまったく見えないもの。膝上までの露出でも大サービスである。
裸エプロンならぬ、裸割烹着。これはこれでエロい! が、真冬本人は、そこにまったく気づいていない。自分のナイス・アイディアにちょっと自慢げである。
が、死織はふと気づいた。
「あれ、これって、後ろは……?」
彼女の背後に回ろうとしたら、悲鳴をあげられた。
「きゃっ! あかん! 何しはるんですか!」
おもわず関西弁で怒られた。顔が真っ赤である。
その可愛さに免じて、死織は真冬の背後の確認を免除してあげることにした。
──ま、この子なら、迂闊に背中を見せちまうこと、ありそうだしな、うしししし。
ちょっとスケベな想像をして鼻の下を伸ばしてしまう。
「ま、とりあえず、謎解きにいきますか」
「ん? 謎解きってなに?」
耳ざとい金太郎が訊ねてきたが、無視。
全裸の死織は奥へ進もうとして、首をかしげた。
「あれ?」
なぜかというと、湯屋の奥には、湯船がなかったからである。
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