ロレックスは興奮に身を震わせる

第101話 ベット、ベット、ベット


 ロレックスが、竜崎R雷蔵の部屋をふたたび訪れたのは、彼が死織から10万Gを巻き上げて、あのクレリックに8万G以上の借金を負わせた翌朝だった。

 ロレックスはいつものごとく、スーツ姿で、護衛のダイブスを引き連れ、雷蔵の部屋の扉をノックした。


 通された部屋は前回と同じ最上階スイートなのだが、朝なので、陽の光が横から差し、光線の加減でずいぶん室内の印象がちがった。

 今朝も3人の黒服メイドたちがおり、しずかに雷蔵の手伝いをしていた。

 朝の来訪だからであろうか。雷蔵は手ずから銀色のティーポットを傾け、花柄のカップに紅茶を注いでくれた。そのカップを丁寧にテーブルへ運ぶメイドたち。


「朝からすみませんね」雷蔵はにっこり笑って顔をあげる。今朝は白いブラウスに、ジャンパースカートという、ちょっと女の子らしい恰好。

 ロレックスとダイブスの分のカップ・アンド・ソーサーが湯気を立てるテーブルへ、自分の分の紅茶を手にして、彼らをいざなう。

「どうぞ、こちらへ」


 ロレックスたちが席に着くと、雷蔵はさっそく話をはじめた。

「エクスカリバーが手に入ったというのは、本当ですか?」

 ちょっと身を乗り出してくる。それはそうだろう。エクスカリバーといえば、この『ハゲゼロ』の世界では、まさに伝説の名剣だ。実在すると言われているだけで、実物はもちろんその存在の確たる証拠をつかんだプレイヤーすらいないのだがら。


「なぜ、それを?」ロレックスは驚いたが、相手は竜崎R雷蔵。それなりの情報網をもっているのかもしれない。ここは諦めて真実を語るか。さもないと命が危ない。

「はい。これです」

 雷蔵が率直ならば、もったいつけても仕方ない。ロレックスはストレージから実体化したエクスカリバーをテーブルの上にそっと置いた。



   <エクスカリバー>

 攻撃力     1575

 装備LV      35

 値段  1500000G

 カテゴリー   ユニーク



「これが……」

 さすがのトップ・プレイヤーも、目を瞠る。


 美しい金色の拵え。波打つ刀身。装備しないと鞘が姿を現さないようで、果たしてこんな波打った刀身を、どういう風に鞘に納めるのかロレックスには想像もつかない。

 しかし、このエクスカリバーは、装備LVというものがあり、それがなんと35。LVたった5の魔術師であるロレックスには、この剣を腰に吊ることは出来ない。

 当然、鞘に納まったエクスカリバーをロレックスが見てみることはできないのだ。


「値段は150万Gとなっているのですが、もとの持ち主からは、500万Gで買いました。申し訳ないのですが、雷蔵さんには最低でも600万Gでの購入をお願いしたい」


 実際には200万Gで買い取っているが、ここは500万Gとしておく。つまり、3倍の値段で売りつけようという魂胆だ。

 さあて、雷蔵はどう反応するか?


「わかりました」黒髪を揺らして、ソードマスターはうなずく。「1000万Gで買いましょう」

「え!?」

 さすがのロレックスも驚いた。


「1000万Gで買います。これはそれくらい価値のある剣ですから」竜崎R雷蔵は、にっこり笑う。そして、変なことを聞いてきた。「もちろん本物なんですよね?」

「はい、もちろん」

 ロレックスは自信をもって肯定する。


「では、疑うわけではありませんが、ベット・システムで判定してもらいましょう。如何かしら?」

「はあ」ロレックスはちょっと微妙な反応をした。なぜならば、そんなやりとりをつい昨晩、死織と演じたばかりだからだ。だが、なぜそんなことを雷蔵は言うのだろう?と首を傾げる。

 武器のステータス画面を見れば、これが本物であることは一目瞭然なのだから……。


 しかし、ロレックスのそんな疑問には構わず、雷蔵はベット・システムの画面を開き、『エクスカリバーが本物か否か?』という賭けを決め、判定員としてその場にいた3人のメイドを選択する。一応用心のため、ロレックスは判定員選択画面でプレイヤーを見てみたが、そこにはダイブスしか表示されない。つまり、他のプレイヤーはここにはおらず、3人のメイドはちゃんとNPCである、ということである。


「では」

 雷蔵は立ち上がった画面「エクスカリバーが偽物である」に『1000万G』をベットする。ロレックスは『エクスカリバー』を上げ、<OK>。このあと、雷蔵が先に動いているから、ロレックスは雷蔵の<OK>をまって、さらに100万Gをベットすることが可能だ。

 賭けの吊り上げは可能だが、ここで欲張ってこのトッププレイヤーの恨みを買うのは損か得か? そんなことを考えていると、雷蔵がさらにベットしてきた。


<1000万G>をベット。


「えっ!?」

 ロレックスはさすがに目を瞠った。


 雷蔵はこのエクスカリバーが本物かどうかに、さらに1000万G賭けようというのだ。

 このベット・システムは雷蔵が起こしている。この場合、雷蔵は最初のベットと同額のGをベットできるが、これは後攻となるロレックスは拒否でき、その場合この金額はベットされない。ここも先攻不利、後攻有利のルールが適用されている。

 だが、断る理由はなかった。


 ロレックスは<OK>する。


 すると、雷蔵はさらに<1000万G>をベット。ロレックスは唖然とソードマスターの顔を見る。彼女は笑っていた。


<OK>


<1000万G>ベット。


<OK>


<1000万G>ベット。


<OK>


<1000万G>ベット……。


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