死織VSモルガン

第74話 ダウン!


 ひとつ下の階は、礼拝堂だった。正面に祭壇があり、十字架があり、脇にはパイプオルガンがある。四囲の壁には、ランプがともり、荘厳なステンドグラスがその光を受けて輝いていた。

 並べられたイスは片付けられ、フロアは広い。戦うのに不自由しないが、死織の予想に反して、天井が高かった。これでは、翼のあるやつは、やっぱ有利。


 もう1階下のフロアへ降りるか? そう考えた瞬間、死織は、ばっと側転をうって側方サイドへエスケープした。

 背後から襲い掛かって来たモルガンの蹴り足を躱し、ガード・リバーサル気味にハイキックを返す。

 すぱーん! 綺麗に入ったと思えたが、打ったのはモルガンのガードする上腕。ダメージは、ほぼゼロ。


「死織、なかなか素晴らしいじゃないか。味方を囮に自分ひとりだけでも助かろうとするとは、さすがだぞ」聖衣とともに丁寧な言葉も脱ぎ捨てたどエロいヴァンパイアが、きしるように囁く。ほんとうに感心しているところが凄い。「だが、逃がしはしない。妹の仇。ここでおまえを血祭にあげてやる」


「俺はお祭りが大好きでね」死織は切掌(手刀)を差しだし、ゆっくりと横に動く。「こちらも仲間が何人も殺されたようだからな。祭りは、盛り上げさせてもらうぜ」


「先に殺したのはお前たちだ。あたしたちは、吸血しただけ」


「そもそもが、さきに地球へ侵略してきたのが、おまえらダーク・レギオンだろ」


「それを言うなら、ゲートを開いたのはお前たちであろう。ふふっ、まあそんなことをここで議論しても埒があかん。あたしは妹の仇であるお前を倒すのみ。どうせ今頃、おまえの相棒も首を落とされているだろうからな」


「さて、それはどうかな?」

 死織は唇を噛み、思わず負け惜しみをいう。


 たしかにノスフェラは手ごわい。ヒチコックの手に余る敵であった。死織は視界の隅に表示されているパーティーメンバーを確認する。表示されているネームはふたつ。

 ヒチコックとイガラシ。ふたりの名前はいまだ消えていない。

 が、それどころかいま、ヒチコックのレベルが4にあがった。キラキラ光る星のエフェクトが回っている。そして、表示されるメッセージ。


『ヒチコックさんが「ヴァンパイア・ハンター」の称号を獲得しました』


 死織は思わず笑ってしまった。

 このメッセージは当然モルガンには見えない。

「モルガン、ああ見えて、うちの相棒は、なかなかダイハードだしぶといぜ」


 死織の笑顔を嘲弄と判じたモルガンが、ぐいと踏み込む。

 2人の間がじりりと縮まる。

 死織は切掌ごしにモルガンの赤い眼を見つめた。相手はヴァンパイア。不死身の肉体を持つ者。ただし、クレリックの格闘スキルによる打撃は、効果が大きい。決して不利な戦いではないはずだ。そう信じたい。


 パンっ!っと死織の頬が鳴って、顔が仰向く。モルガンのパンチ。フリッカージャブか? 全然見えなかったが、着弾した。まだ遠いと思ったが、もう射程圏内かよ。


 ──手強い。

 ガードを上げたところに、低いローキックが、芝刈り機のように飛んでくる。打点を外して防御、こちらは端脚!

 ひゅん!と風を巻いて蹴り上げられた死織の爪先を、紙一重で躱して踏み込もうとするモルガン。が、死織は連続技で、蹴り上げた脚を踵落としに蹴り下ろし、モルガンの踏み込みを阻む。そこからの後ろ廻し蹴りフグ・トルネード


「なにっ!」

 死織は驚愕の嗚咽をもらす。モルガンの身体が、床の上を滑るように後退している。


 ──ホバーしやがった……。


 それがヴァンパイアの飛翔能力によるものだと気づくのに一瞬を要した。死織の硬直を捉えたモルガンは、滑空するように迫り、そこから撫で斬るように美脚を振るう。


 躱しきれずにガードする。がりっと自分のHPゲージが削れる。1撃目はガードできたが、モルガンは2撃、3撃とつなげてくる。天馬回転蹴りみたいな連続蹴りに、死織のガードは弾き飛ばされ、そのまま蹴り足を顔面に喰らって後ろに吹き飛ばされた。



 一瞬意識が遠のき、まるでビルの屋上から後ろ向きに落ちるような落下感ののち、自分が床の上にダウンしたのだと辛うじて知覚する。遥か彼方に、礼拝堂の天井が見えた。

 ………………。



 ──いかん!

 はっとわれに返る。目を見開くと、高く、天井近くまで上昇したモルガンが、禍々しいコウモリの大翼を広げ、それをぐるりと螺旋状に体に巻き付けると、自らの翼でドリルを形成し、強烈な回転とともに落下してきている。

 あんな必殺技ファイナル・ベントをまともに喰らったら、絶対助からない。


 →↘↓↙←↖↑↗、→↘↓↙←↖↑↗→!


 レバー回復! 豪快な方向キーの大回転でダウン・ダメージを回復し、わが身を叱咤して横に転がる。

 間一髪、横転して回避。床に突き刺さったモルガンのドリルが、床材の破片を飛び散らせて、ど派手な土埃をあげている。


 死織は横転からの起き上がり蹴りを放って立ち上がるが、モルガンはするりと回避。読まれている!

 そこからヴァンパイアの反撃。腰を入れて踏み込むような左ストレート。

 続く右のハイキック。

 長い脚が風を巻いて蹴り上げられるのを、死織はがっちりガード。モルガンの蹴り足のもどりに、すかさず踏み込む。


 ばちっ!

 目の前に火花が散った。肘!? 肘打ちエルボーを喰らったと気づくのに一瞬を要する。そしてそこから最速でつなげられる膝蹴り。


 死織は胸を強打され、身体が浮き上がるのを感じた。そして、そこへ、モルガンのさらなる追撃。女ヴァンパイアの身体が、浮き上がり、閃くような高速で、風を切って後方回転する。刈るような蹴りが真下から! サマーソルト・キック!!


 モルガンの、バック宙からの蹴りをもろに喰らって、死織は後方へ吹き飛ぶ。HPゲージがごっそり削れるのに肝を冷やしながらも、接地の瞬間受け身をとって立ち上がる。強烈なコンボをくらって目が回っているが、それどころではない。

 跳び上がり、そのまま上昇したモルガンの両翼が、魔女の身体に巻きついてドリルを形成していた!


 回避できねえ。ガードすれば削り殺される。死織の全身が恐怖に震える。

 モルガンの身体が回転しながら、落下してきた。




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