　死織は、喰らいついてきたギャラルガーの顎に端脚を打ち込んだ。

　→Ｋ！

　高く上げた美脚で、飛竜の、人の身体ほどもある頭部を蹴り上げる。が、蹴った衝撃があり得へん！　まるで岩盤だ。通常ヒットの感覚ではない。しかも、ノックバックもしてくれない。

　死織はすかさず、ギャラルガーの死角である左眼側へ立ち位置をシフトして、旋風脚！

　Ｋ＋Ｇ！

　跳躍して、旋回しての大技だが、やはりこれも効いている気がしない。

　ざっと、チャイナ・ドレスの裾をはためかせて着地した死織は、顎につたう汗をぬぐった。冷や汗である。

　まずいな……。

　相手が悪すぎる。素手でどうにかなるもんじゃないぞ、これは。

　ギャラルガーが死織を狙って、戦闘機のように尖った鼻先を突き出してくる。刃のように鋭く、鋼鉄のように硬い鼻先だ。

　ガードはできない！

　死織は身を翻し、飛竜の切っ先を外す。入れ違うように、相手の頭部へ密着時最大ダメージである鉄山靠をいれてみる。

　←→→Ｐ＋Ｋ！

　これで、どうだ！

　飛竜の頭部が、撞（つ）かれた鐘のように震えた。効いている！　だが、これ、何発入れればこの化け物は倒れてくれるのか？

　死織はちらりと視界内の情報を確認する。ギャラルガーのＨＰ表示はない。単なるエラーか、あるいは巨大な敵であるため非表示なのか？

　これはもしかしたら、やばいかもしれない。

　ある程度攻撃を試して、通用しないと判断したなら、撤退の選択をする必要があった。

　死織は地に転がって攻撃を躱す。ガードとか当て身とかは、この巨大飛竜には通用しない。

　回転受け身から立ち上がる死織の横に、だがそのとき、すっと立った影があった。

　え？と思って振り返ると、黒い軍服に金ボタンの少女。さっとスカートの裾を蹴って構える腕に持つのは、大型自動拳銃。

「ヒチコック、てめえ、なにやってんだ！」死織は思わず叫ぶ。「尻尾の切断面狙えっていったろうがっ！」

　ギャラルガーの体表は、細かい鱗に覆われていて、銃弾を受け付けない。が、尻尾を切断したその切断面なら、銃弾が弾かれることなくダメージを確実に与えられるのだ。つまり、こんなところにいられたら、邪魔だし、意味がない。

「こっちでやります！」

　言い張るヒチコック。どうやら、ギャラルガーの胸を狙って銃を連射しているらしい。たしかにそこには、自らの生体レーザーを反射されて受けたダメージがあり、鱗の一部が削れた部分がある。が、ギャラルガーも動いているし、そのダメージ部分は小さく、当たりづらい。

「早く背後に回れ！」

　死織は叫んで、ギャラルガーの顎を躱す。躱しきれなかったヒチコックが巻き添えをくらって吹き飛ばされた。

「きゃっ！」悲鳴をあげて地に倒れたヒチコックは、すぐに身を起こして膝撃ちの姿勢で射撃を再開する。が、与えるダメージは皆無に近い。ギャラルガーは頓着せず、しかし目の前に獲物を見つけて、攻撃するマムシのような勢いで、ヒチコックに向けてしゅっ！と噛みついていった。

「ヒチコック！　よけろっ！」

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