旅立つ2人を見守る影

第27話 勇者たちの旅立ち


 キャラバン隊は朝のうちに出発した。

 王都へ運ぶべき荷物を、ゴブリン部隊との戦闘で消費してしまったため、来た道を急遽もどることになったのだが、出発する男どもの表情は晴れやかだった。

 馬がいないため、荷馬車は1台だけ。あとは徒歩での移動になる。予定では、隣村に厩舎があるため、そこで馬を入手してから再びピコの村にもどり、荷馬車を繋いでキャラバン隊を再編成することになっていた。


 プレイヤーであり、ゴブリンを多数倒した経験値によりLV3へ成長した魔法少女カエデは、すこし遅れての出発。街道を進んで、古都ラムザを目指すとか。



 そして、最後。昼過ぎの出発になったのは、死織とヒチコックの2人だった。


 彼らの出発は、村人全員が見送る盛大なものになり、死織もヒチコックも名残惜しそうであったが、プレイヤーたるもの、いつまでも『はじまりの村』にいるわけにもいかない。

 これは、2人の戦士の門出であり、喜ばしいことなのだ。


 酒場の主人のテッドも、武器屋の親父のタカハシも、2人の出発を大きく手を振って祝っていた。幼いメイミーは、ヒチコックの膝に抱き着いて大泣きしていたが。



 やがて歩き出す2人。


 出発が遅れて不機嫌な死織に、旅立ちへの期待から上機嫌なヒチコックが話しかけている。


「きょうは、どこに泊まるんですか?」

「アホ。おまえがぐずぐずしているから、つぎの宿場まで日暮れに間に合わねえ。今夜は野宿決定だよ!」


 言い合いながらも、街道を去ってゆく2人。

 その2人の影を、木の枝の上、木の葉に身を隠して気配を消したカゲロウは、じっと見送っていた。


 細い長身。赤いチャイナ・ドレスに身を包んだ死織の女っぽい蜂腰を眺めながら、ぽつりとつぶやく。



「死織、おまえ、記憶ロストしているのか? まさかおまえが、拙者の事を覚えていないとはな……」




                        〈第1章 完〉

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