第16話 キャラバン隊は3の倍数
死織たちがゴブリンの集団に見つからないよう逃走して、ピコの村にもどったとき、村は大勢の人で溢れて大賑わいだった。
通りに荷馬車が何台も止まり、そこから降りた旅人たちでざわついている。
キャラバン隊が到着したらしい。
キャラバン隊の隊長が、酒場のテッドと交渉しており、総勢16名の宿を手配してくれと、笑顔で告げていた。だがテッドの酒場は、すでに2階の部屋には死織やヒチコックが入ってしまっているし、いずれにしろ16人の宿泊客に酒場の2階だけでは部屋が足りない。団体客が来た場合の対応としては、パン屋のフレッドや靴屋のバートなどの家の、それぞれの2階に宿泊客たちを振り分けることになるので、テッドが中心になってその算段をつけていた。
「キャラバン隊ってのは、これもまあ、いわゆる村人と同じでNPC。AIキャラだな。普通に街道を旅して、宿場町なんかで宿泊したり、その辺に火を焚いて野宿したりするんだ。ランダムに移動していて、たまに出会うんだよ。頼むと、馬車に乗せてくれたり、食料を分けてくれたりするんだ」
解説しつつ、死織は馬車の列を早足に追い越してゆく。
荷馬車は全部で5台。荷台には山盛りの物資が積まれている。
レンガ、化粧石、酒樽。雑貨もある。
「これは、城への納品だな。どこかの城塞へ行くのかもれしない」
ヒチコックに解説しつつ、死織は何かを探してきょろきょろしながら、荷馬車とキャラバン隊の男たちの間を早足に抜ける。
やがて目的のものを見つけた死織は、足早に近づき、手を伸ばした。
「おい、おまえ」
死織は、頭からすっぽり、麻のフードを被った男の肩を乱暴につかんだ。そして、次の瞬間、弾かれたようにステップ・バックする。
フードの男が、ふいに掌打を繰り出してきたのだ。死織はそれを躱すが、男の追い打ちの蹴りは鋭い。死織は手の甲で払い、ついで繰り出される拳打を、入れ違うようにして外す。
「やるな。骨法か。忍者だな」
死織が、チャイナ・ドレスの裾を翻してターンを決め、間を外すと、相手はあきらめたように、被ったフードを外した。
下から、金属の面頬と鉢金で素顔を隠した頭部が現れる。男は忍び装束に身を包んでいた。
「なぜ、拙者に気づき申した?」
時代劇口調で訊ねてくる忍者。
「へっ」
死織は片頬を歪める。
「キャラバン隊は、馬車1台に3人だ。つまり、人数は3の倍数だぜ。馬車が5台なら、メンバーは15人。16人いるということは、1人、余所者がまぎれこんでいるってことだ。おまえ、名前は?」
相手の忍者は一瞬躊躇した。が、意を決して名を名乗る。
「カゲロウと申す」
「カゲロウさんね」死織は小さくうなずく。「俺は死織。クレリックだ」
「でも、中身はおっさ……むぐぅ」
余計なことを言いかけたヒチコックの口を塞いで、代わりに紹介する。
「こっちは、ヒチコック。ガンナー。ときにカゲロウさん、教えてもらいたいことがあるんだが」
「なんでござるか?」
警戒したように、カゲロウは面頬の奥の赤茶の目を光らせる。
「このさきの森の奥で、多数のゴブリンが野営している。数はざっと50匹。あんた、ここに来る途中で、他のゴブリンを見なかったか?」
死織の問いを聞いて、カゲロウの身体が幽かに揺れた。
「死織殿とおっしゃったか? たしかにここへくる途中、拙者も、何匹ものゴブリンが移動した形跡を裏街道の獣道で複数回、確認した。それは、おそらく……」
「やはり、そうか」
死織は腕組みし、深く嘆息した。
「ゲート囲いか」
「ゲート囲いでござろう」
死織とカゲロウの結論は、一致する。
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