死織は、格闘ゲーマーである
第7話 回復なんて、間に合わねえから
その少し後、死織は少々呆れつつも、森へと続く小路を登っていた。
隣を歩くのは、本日出会った初心者プレイヤー・ヒチコック。ガンナーである。
彼女の『中の人』、すなわち
死織からすればヒチコックは新人類であり、異星人であり、もう理解しきれない存在であった。
キャラメイクでやらかすわ、最弱&地雷といわれる
「森って、遠いんですか?」
呑気にヒチコックが訊ねてくる。
「この坂を登り切ったら、唐突に始まるよ。そういうところは、やっぱゲームだよな」
死織は坂の上を指さす。
坂の上から唐突に森。右手には大きな河が流れている。ただし河に橋はないので、向こう側へはいけない。川から水をとるための用水路が村へ伸びていて、そこだけ妙にリアルだった。
「よーし、やるぞー」
ヒチコックは、気合たっぷりに腰のホルスターから銃を抜いて、構えてみせる。
さっき武器屋で買ったばかりの新品。コルト・ガバメントだ。
ベルトには茶革のビキニタイプ・ホルスターが通され、反対側の腰にはマガジン・ポーチが装備されていた。マガジン・ポーチには、予備の
死織もさすがに知らなかったが、武器屋の親父の説明によると、この
「えっ、たった10秒なんですか!」
武器屋で説明をうけたヒチコックは驚いたが、死織は逆の意味で驚いた。
「10秒もかかるのかよっ!」
そう。バトル中の10秒というのは、ものすごく長い。これは格闘ゲーマーである死織の経験だが、10秒間的確に攻め続ければ、相手の体力の半分以上を奪うことができるのだ。
「それ、マガジン、もう一本買った方がいいんじゃないか?」
死織はヒチコックに提案したが、彼女は従わなかった。
ホルスターやポーチを買って、弾薬を仕入れたら、もう残金があまりなかったのである。
「ちょっと稼いでからにします」
ということで、ヒチコックのレベル上げ、および資金稼ぎに付き合って、敵が出現する可能性の高い森へと向かい、いまは坂道を登っている状況である。
「死織さん、クレリックってことは、回復魔法がつかえるんですよね?」
いざとなったら死織に回復してもらうつもりのヒチコックは、意気揚々と問い掛けてくる。
「使えるけど、意味ないぞ」
「どうしてですか?」
口を尖らせるヒチコックに言ってやった。
「LV1じゃあ、攻撃受けたら一撃で死ぬからだよ」
「……え?」
「つまり、回復してる暇はない」
「じゃあ、さっき買った回復薬は?」
「当面、無用の長物だな」
「え、でも、それって、おかしくないですか? LV1で、敵の一撃で死ぬなら、だれもLV2にいけないですよね」
「喰らわない、しかないな」
「え? でも、スライムの攻撃は、3発くらいまでなら死なないって、たしか……」
「スライムなんて、いねえよ」
「え? でも、最初の敵はスライムなんですよね?」
「昔はな」死織は肩をすくめた。「でも、もう全滅した」
「全滅なんてするんですか?」
「みんなが狩りつくしたからな」死織は嘆息する。「だって、全滅してくれないと、困るだろう? 俺たちの目的は
「えーと」
「スライムは、LV1で参加してきたプレイヤーたちが、LV2になるために、狩って狩って狩りまくった。もうすでに絶滅しているよ、オーストラリアのフクロオオカミみたいにな。だから、おまえが相手にするのは、アレだ!」
死織は、森の入り口、叢の中で身を低くして戦闘態勢を取っている獣を指さした。
そこには、ちょっとビビるくらい大きな狼がいた。
ブルー・ウルフだった。
「安心しろ。フクロはついていない」
死織はきっぱりと言い切った。
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