終章【それは黄泉へと至る】

 気絶したユフィーリアを抱えて戻ってきたショウは、海賊船の客室を使わせてもらうことにした。一応、設備はきちんと整っているらしい。

 びた臭いのする敷布の上に直接彼女を寝かせることは少しだけ嫌だったので、敷布の上に赤いかすり模様が入った羽織を敷いてから寝かせてやった。脈拍も正常だし、体温も問題ない。呼吸はできているから、空気飴エア・キャンディも吐き出していないだろう。


「よう、少年。今日の功労者は寝てるかい?」

「帰れ」

「酷い言い草だ」


 そんな時、ひょっこりと顔を覗かせてきた骸骨に、ショウは一瞥もくれることなく辛辣な台詞を吐く。基本的に、ユフィーリアの意識が及んでいない場合はこんな感じだ。

 骸骨――キャプテン・テイラーはやれやれと肩を竦めると、


「そういや、少年。この前、深海までこなかったか?」

「?」

「ああ、いや。お前さんの関係者っぽいというか、なんというか」


 テイラーは剥き出しの頭蓋骨を骨の指で掻くと、


「実はこの前、アングリードに二人の天魔憑きがやってきた。そいつらはこの船でワノクニまで行けねえかって言ってたんだが、行けないって言ったら帰って行ってな。その時のうちの一人が、お前さんにそっくりだったんだよ」

「そっくり? まあ、そのような人物もいるだろうが……」


 ショウには親戚らしい存在はいない。思い出すことすらできない。

 そんな似ている人物になど心当たりはなく、首を傾げるショウにテイラーは「ああ、違うな」と言う。


「そっくりってか、。お前さんを老けさせたような、そんな雰囲気がある」

「――――」


 自分の姿に瓜二つ。

 そして、ワノクニ。

 ショウは、それらの条件に合致する人物に心当たりがあった。

 しかし、それを言葉にするより先に、テイラーが「まあ、戯言だ。忘れてくれ」なんて言って去ってしまった。

 彼の話が本当であれば、おそらく一人だけだ。


「……父さん?」


 思わず、ショウは呟いていた。

 それは遥か昔、燃えゆく自宅に飛び込んで消えた父の姿だった。

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