序章【炎の中に消える背中】
子供の頃の記憶は、もうほとんどない。
朧げながら覚えていることは、紅蓮の炎と肌を焼くような熱気。そして炎の中に消えていく、誰かの背中。
「――おとうさん」
夢の中の、まだ子供の自分が背中に向かって呼びかける。
その呼び方は果たして正解だったようで、炎の中に消えていく誰かはゆっくりと振り返った。
しかし、顔が分からない。どんな表情を浮かべているのかさえ、もう分からない。黒い霧のようなものによって覆い隠された誰かの顔は男のようであり、和装で、ピンと伸ばした背筋が美しく、凛とした雰囲気が漂っていた。
頭の中に声が響く。とても穏やかで心地がよく、いつまでも聞いていたいほどの涼やかな男の声が。
ショウ。
君は、君の人生を歩みなさい。
決して誰かに縛られてはいけないよ。
瓦礫が誰かを覆い隠していく。姿さえも朧げになってしまった父は、もうすでに見えなくなってしまった。
――その光景を、ただ立ち尽くして傍観しているしかなかったショウ・アズマという少年は、最期に父が言った台詞の意味を考えていた。
君の人生を歩みなさい。
誰かに縛られてはいけないよ。
(――俺は、誰かに縛られた記憶はない)
その言葉の意味が、いまだに理解できずにいた。
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