第14話【戦争開始】
「あーあーあーあー、やっちまったよやっちまったよ。どうしてこんな乱暴な手段しか取れねえかなァ俺は。本当に馬鹿たれだよ、脳筋かっての」
「いつまで嘆いているつもりだ」
「この任務が終わるぐらいまでは引きずっちゃう。俺ってば紳士だから」
「貴様は紳士だったのか?」
「え、なに? まさかお前、俺のことを淑女だとでも思ってたの? こんなガサツな淑女って世界中探してもいる?」
「いや、馬鹿で阿呆で屑だと思っていたのだが」
「殴っていい? お前に関しては手加減はなしで」
「丁重に断らせていただく」
深夜の海風が頬を撫で、ユフィーリアとショウを戦場へと誘っていく。
明かりが落ちた『二の島』を悠々と徒歩で移動して、二人が辿り着いた先はアクティエラの中心に
人はそれを『
アクティエラで最も重要な施設であり、行政機関を一箇所に集めた島が『一の島』だった。普段は関係者以外立ち入り禁止となっているが、天魔に地上を追われた今、そんな常識などあってないようなものだ。
夜の闇に沈む鉄橋の向こうに、黒々とした鋼鉄の塔が夜空を押し上げている。強風を受けてもビクともしない太さと頑丈さを備えたそれは、月明かりを浴びて鈍く不気味に輝いていた。
普段なら自警団が立って侵入者を防いでいるだろう鉄の門扉は無残に破壊され、ユフィーリアとショウは壊された鉄扉を通り過ぎる。
「つーかよ、ショウ坊。お前、腕千切れてなかったっけ?」
「ああ、千切れたな」
ショウの左腕は確かにあの少年によって引き千切られたはずなのだが、今ユフィーリアの隣にいる彼は四肢がきちんと揃った状態だった。いつのまにか
ショウは左腕を見せつけるように掲げて、
「【
「腕も生えるってか。蜥蜴かお前」
「蜥蜴ではない、人間だ」
「本気で答えてくんじゃねえよ、ただの冗談だろ」
そう口先では言うものの、ユフィーリアは本当に蜥蜴かなにかではとちょっと考えてしまった。すぐに腕が生えてくるなんて、そんなの蜥蜴とかそういう生物の特徴ではないか。
「いいよなァ。俺なんかなにもねえのに」
「貴様は剛腕があるだろう。その力は海も割くと聞くぞ」
「え、マジで? 今度実践してみようかな」
「保証はしないが」
「よくよく考えたら海に向かって拳を突き出すとか馬鹿っぽくね?」
「今更ではないか」
「やっぱり殴っていい? 割と本気で」
「丁重に断らせていただく」
つまらなさそうに唇を尖らせるユフィーリアの隣で、ショウが「ところで」と話を切り出した。
「あれだけシズク・ルナーティアを痛めつけたというのに、奴の『助けて』には応じるのだな」
「まあな。一応は手加減したし、吐き出させる為の演出に過ぎねえけどな」
「やりすぎではないか?」
「…………まあ、その、ちょっと苛立ってたってのもあるけどよ。俺も悪かったって思ってんだって。まさか泣くとは思ってねえじゃん?」
「あれだけの殺気に晒されて、しかも割と本気で蹴飛ばされて戦闘になれば誰であっても泣くと思うが」
「これが終わったらシズクに土下座してくる」
「首を差し出すことにならなければいいがな」
「嫌なこと言うなァ」
戦場でするにはだいぶ似つかわしくない会話をしながら鉄橋を渡っていた二人だが、唐突にその歩みを止めた。
鉄橋の向こうに、大勢の人間が待ち構えている。その手には植木鉢や椅子などの鈍器として機能するような家財道具が握られていて、こちらに進んでくれば迷わず迎撃する体勢が整っていた。
かといって、引き返すこともできやしない。すでに背後は『二の島』で暴徒と化した住民たちがやはり椅子やら机やらを装備して、ユフィーリアとショウが逃げ帰ってくるのを待ち構えている。
やれやれと肩を竦めたユフィーリアは、
「随分と人気者になったモンだ。出待ちがあんなにいやがる」
「現実を見ろ。あれほど殺気立った出待ちがいるのか?」
「冗談を間に受けるなっていつも言ってんだろ。クソ真面目だな」
ユフィーリアは軽く全身の筋肉をほぐし、すぐに戦える状態にする。それから隣のショウを見やると、彼はすでにマスケット銃を携えて完全武装していた。戦う気であるのは十分理解できるが、今は状況が違う。
「ショウ坊、相手は人間様だぞ。無力化だ無力化」
「敵の位置に立ったのであれば、容赦など必要あるまい?」
「純粋な目で物騒なことを言ってんじゃねえよ。俺も一瞬だけ考えたけどよ」
ユフィーリアの指摘を受けて、ショウは仕方なしにマスケット銃を消した。
撤退することはない。二人が選び抜いた道は、真っ直ぐに伸びる鉄橋の先にある敵の本拠地だ。その先で『助けて』を待つ少年を助ける為に。
「さあさあ怪物ども、戦争しましょうかァ!!」
獰猛な笑みを浮かべたユフィーリアは、歌うように開戦を告げた。
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