第3話【月天狗の天魔憑き】
退屈な除染作業から面倒な調査に仕事が変わったぐらいで、ユフィーリアは別に文句を言うつもりはなかった。動き回る方が性に合っているし、第一戦場に出ることができるのであれば敵と戦う時がくるだろうから、王都にこもって除染作業をするより断然マシだった。
だが、
「高高度から命綱なしの空中落下とか洒落になんねえだろあのクソ司令官帰還したら覚えとけよ絶対に殺してやる――――ッ!!」
ユフィーリアの
ごうごうと風が耳元で吹き
グローリアの『空間歪曲』が繋がった先は、やはり予想通り高高度だったのだ。なにが大丈夫だ、全然大丈夫じゃない。
「この状態から生き残れって無理だろ!! どうすりゃいいんだ神様に祈ればいいのか!?」
徐々に近づいてくる地面に、ユフィーリアは最強らしかぬ涙を浮かべて絶叫する。もう叫ぶしか手段は残されていないのだ。
「そうだ、ショウ坊!! ショウ坊おい生きてるか!? 大丈夫か!?」
自分と同じように『空間歪曲』の餌食となった相棒の少年を探すと、彼はユフィーリアより少し上にいた。おそらく体重が軽い分、重力もそれなりに軽減されているのか畜生。
しかし、ショウはピクリとも動く気配を見せない。彼はじっと地面を見据えたまま、
「ユフィーリア」
「おう!?」
「短い間だったが世話になった。貴様と共にカードゲームをして遊んだあの時を俺は忘れない」
「やべえショウ坊がついに死を悟り始めた!!」
同じ天魔の命を狩ることを生業とする文字通りの死の象徴である
表情一つ変えず、しかし顔色だけは真っ青の状態のショウは、自在に操ることのできる火葬術を使おうとすらしない。すでにもう死んだものと思っているのだろう。
「俺が最後まで文句を言ってた理由が分かったろ!? こうなるだろうなって思ったんだよ!!」
「ああ、よく分かった。軽率な発言だったと己を葬儀してやりたい気分だ。すまないユフィーリア、この状態だと術式が上手く扱えない故に使わないでいいか? 地面と衝突することで償いとしよう」
「誰もそこまでしろって言ってねえ!? いやお前のせいにしたかったけど悪かったお前なんも理解してなかったよなごめんな!?」
そういえば俗世の常識に疎いところがあったか。『グローリアの提案はまず疑え』ということを教えてやらなければいけないか。彼の場合、立案する作戦は信じるに値するものだが、彼の提案は疑ってかかった方がいいのだ。ちなみにこれは経験則である。
生きることに対して絶望しているショウを引き寄せて、ユフィーリアは落下しながらどうやって二人一緒に助かる方法を探す。ユフィーリアの外套の内側には数多の武器が揃っているが、なんの取っかかりもない大空に縄を投げても意味ないし爆薬で浮かすことなど以ての外だ。いっそ『
結論――詰んだ。
「やっぱり殺す絶対に殺す冥府の底から意地でも蘇って殺してやるからなグローリアあああああああああああああああッッ!!」
こんな状況を作り出した元凶に対して怨嗟を叫びながら、ユフィーリアは落下の衝撃に耐える。歯を食いしばって耐えることができるのかどうか不明だが、骨の一〇本か二〇本を犠牲にしてもまだ生きていられるのであれば御の字だ。
その時。
フッ、と。
視点が急に切り替わり、ユフィーリアとショウはうつ伏せの状態で地面に寝転がっていた。
「「………………………………………………………………」」
なにが起こったのか分からない。
しかし、下に見ていた地面に叩きつけられるにはまだ早すぎる。それに叩きつけられた衝撃がなかった。まるで空高く落ちていた二人を地面へ転送したかのような。
顔面から土に突っ込んだ二人は、もそもそと無言で体を起こす。
周辺を確認してみるが、鬱蒼とした森の中ということ以外は情報がない。転送装置めいた代物もなし、目につくものは青々とした葉が生い茂る木々だけだ。
「…………冥府とは、意外と自然が多いのだな」
「現実逃避してるようなら殴ってやろうか、ショウ坊?」
現実逃避をし始めたので、ユフィーリアは静かに拳を握ってやる。ユフィーリアが契約した天魔は、天魔最強と名高い【
冗談で言ったつもりだったのだが、クソ真面目で冗談が通じないショウはすぐさまユフィーリアから距離を取り、首を全力で左右に振って「必要ない」と拒否してきた。本気で殴る訳がないだろうに。
それにしても。
ユフィーリアは瞬間移動できるような武器を有していないし、そういった知識も皆無だ。ユフィーリアの技――『お
かといって、ショウがそのような技を身につけている風には見えない。偏見はよくないだろうが、目の届く範囲にいた彼がそんな行動を取る瞬間を見たことがない。
だから二人が高高度から落下中であるにもかかわらず、地面まで転移することは実質不可能なのだ。
「誰かが俺らを転移させた?」
「その『誰か』の部分が問題になってくるのだが」
「転移させるような術式って誰か使えんのかよ。空間に作用する
「奪還軍に所属していない天魔憑きの仕業か? だとしたら一体誰が」
自然と議論を重ねていくうちに、ユフィーリアとショウはどこからか小さな声を聞いた。
押し殺したような声だ。なにかを耐えるようなそんなものの雰囲気がある。
周辺を見渡すが、やはり変わらず鬱蒼とした森の中のままである。人の影すら見えない。
「誰かいるのか?」
「……………………」
ショウは警戒するように柳眉を寄せるが、ユフィーリアは押し殺した声が聞こえてきた理由がなんとなく察することができた。
多分、あれは――。
「ショウ坊」
「なんだ」
「殴っていい?」
「何故」
「いやなんとなく。そこにお前がいたから」
「理不尽な理由で殴られるのはさすがに許容しかねるが。殴られたら迎撃する」
「大丈夫、迎撃する前に迎撃し返すから」
「何一つとして大丈夫の要素が見当たらないのだが、俺は貴様の
「――――ぶわははははははははははははははあひーッ!!」
理不尽な理由で暴力を振るおうとしたユフィーリアに対して、ショウはその暴力を振るうに至った理由の説明を求めていたが、それを邪魔するかのように下品な笑い声が森中に響き渡った。
狂ったような笑い声が耳を
その青い塊の正体は、なんと人だった。一〇代後半ぐらいの若い少女である。
まるで空の色を流し込んだかのような青い髪と涙で潤む深海色の瞳、顔立ちは可愛らしいと表現できるものの桜色の唇から漏れ出る下品な笑い声によって全てが台無しにされていた。起伏の少ない華奢な体躯を迷彩柄の戦闘服に包み、銀色の長大な狙撃銃を抱えている。
まるで全身に電気を流されたかのようにビクビクと痙攣する青い髪の少女は、地面に落ちたことに対しても「イッテェあははははははははははは」とやはり狂ったように笑っていた。一体なにが彼女のツボにはまってしまったのか不明だが、ユフィーリアは今ようやく押し殺した声に対して確信を得られた。
すなわち、笑い声だ。
隠れていた木の上でユフィーリアとショウのやり取りを聞いた彼女は、ついに我慢の限界が訪れたのだろう。ここまで笑われるとは思わなかったのだが、落ちてきてくれたことは
「ショウ坊、縄あるか?」
「
「その話題を引きずってんじゃねえよ、もう終わったことだよ」
「俺は殴られないでいいのか?」
「あいつの居場所を見つける為の冗談だっての」
これだから冗談を真に受けるクソ真面目とはソリが合わないのだ。
もう本当に一発殴ってやろうかなと考えたユフィーリアだが、自分が置かれた状況が分かったらしい青い髪の少女が正気に戻ったことによって、すぐさま思考回路を戦闘用のものへ切り替える。
少女は狂ったような笑いから表情を一転させ、怯えたような視線を向けてくる。屁っ放り腰の状態で足を縺れさせながらユフィーリアとショウから距離を取ろうとするが、抱えた銀色の狙撃銃に足を引っかけて無様に転んでしまう。
「ショウ坊、牽制」
「了解した」
自分の成すべきことを理解したショウは、虚空を軽く握るように指を曲げる。その手の先に自然と紅蓮の炎が灯ると、見る間に重火器の形を作っていく。紅蓮の炎が自然と消えたその時、彼の手にはマスケット銃が握られていた。
長い銃身には溝が刻み込まれ、分解できるような継ぎ目は存在しない奇妙なマスケット銃である。撃鉄の部分には本来なにかが埋め込まれていたのか、赤い破片のようなものが付着している。
「おい、それ」
「
ユフィーリアがマスケット銃の正体に気づいて指摘しようとするが、それより先にマスケット銃を慣れた手つきで構えたショウは、逃げ惑う少女に対して引き金を引く。
カチンというささやかな銃声と共に放たれたものは、ごうごうと燃え盛る火球だった。拳大の火球はヒュンと虚空を飛んでいくと、少女の逃げる方向へ着弾した。地面に叩きつけられた火球は一際大きく燃えて、溶けるように消えていく。
「ぎょえッ!?」
驚きのあまりに変な声が出てしまったらしい少女は、ぺたりと地面に伏せて次の牽制に備える。
しかし、ユフィーリアはその隙を見逃さなかった。地面に伏せる少女の背中を踏みつけ、簡単に逃げられないように適度な圧をかける。
「よーうお嬢さん、ちょっと俺とお話しない?」
「し、しな、うええ」
それほど強く踏みつけたつもりはないのだが、少女の口から呻き声が漏れたので足を退けてあげることにした。いざ這いずってでも逃げようとする根性があるならば、すぐさま捕まえる自信がある。
少女も少女で逃げることは諦めたのか、うつ伏せの状態から起き上がると地面に膝を抱えて唇を尖らせた。
「酷い酷い、ウチはキミらの命の恩人なのにさ。踏みつけるとかあんまりすぎじゃね?」
「命の恩人っつーと、空から落ちてる俺らを転移ないしは転送したのはお前ってことか」
「そゆこと。あとウチが使えるのは『転送術』っていうから、転送でいいかもね」
よいしょ、と少女は立ち上がる。今までは地面を転がっているかうつ伏せになっているかしていたので分からなかったが、青い髪の長さは膝裏まで到達するほど長い。銀色の狙撃銃も、地面に突き立てれば少女の腰まで届く大きさである。
拗ねた顔から一転させて、少女は
「ウチはシズク・ルナーティア。これでも一応
「ああ、まあ、笑わなけりゃ存在感ねえよな」
森の中でも嫌に目立つ青い髪をしているが、喧しく笑わなければ空気に溶け込んで見失ってしまうほどに少女――シズク・ルナーティアは存在感が希薄である。なるほど、狙撃手という役職であるのも頷けよう。
シズクは都合のいい言葉だけを拾ったのか、それとも両方とも褒め言葉として受け取ったのか、薄い胸を張って「どんなもんだーい」と自慢げに言う。狙撃手として「存在感がない」は褒め言葉になるだろうが、前半の「笑わなければ」は完全に嫌味のつもりだったが。
「ところでオニーサンも得物は狙撃銃なんだね。いや、それマスケット銃かな? 一発しか撃てないマスケット銃を得物にするとか、オニーサン実はかなり物好きなんじゃね?」
「あ、そういやショウ坊。それ俺の銃だろ」
シズクの話題が重火器に移ったところで、ユフィーリアもショウがなにを使ったかを思い出す。
ショウが得物として手に取ったのは、以前ユフィーリアが王都アルカディアを占拠する天魔――【毒婦姫】を倒す際にショウへ預けたマスケット銃である。同じ形のものがいくつも外套の内側に隠されているし、ショウへ渡したのもそのうちの一挺であるが、何故すでに弾丸を撃ち切った空砲を得物として扱っているのか。
マスケット銃を守るように抱えて、ショウはおずおずとした調子で聞いてくる。
「やはり……返却しなければならないのか?」
「いや別に、新しく弾丸を込める訳でもねえのに使ってんのが謎なんだよ。そもそもお前の得物は
他人の戦闘形式については口を出さない主義であるが、最も身近で戦場を共にする相棒の武器が急に変われば口を出したくなるというものである。
扱えるのであれば別にこれ以上の言及はしないつもりだが、何故いきなり回転式拳銃からマスケット銃に装備を変更したのか気になるところである。ユフィーリアがその辺りを指摘すると、ショウはほんの少しだけ赤い瞳を伏せて、
「……術式から回転式拳銃を二挺も生み出すことに非効率さを感じた。長期戦を想定するのであれば、術式の制限も必要だろうと判断した」
「なるほどな。術式から編み出した武器に術式を流し込んで使うんじゃなくて、既存の武器に術式を流し込んで少しでも負担を減らそうって魂胆か」
ショウの場合、自由自在に生者を焼き尽くす炎を操ることができるものの、やがては体力を使い切って戦えなくなってしまうという制限がある。特に周辺一帯を焼き尽くす大技などを使えば、空腹によって動けなくなることは必須だ。
そして、ショウは自分の武器をこれといって定めていない。いつも変幻自在に操ることのできる炎から回転式拳銃を二挺生み出していたが、使えば使うほど体力を消耗する火葬術であるならば、少しでも節約できる部分は節約したいのだろう。その点、既存の武器を用いれば用意すべきは弾丸のみということになる。武器と弾丸に術式を使うのではなく、弾丸にのみ術式を用いれば節約は可能だ。
多分それ以外の理由もあるだろうが、ショウは一度だけ大きく頷くと「そうだ」とユフィーリアの回答を肯定する。そういえば以前、【毒婦姫】が引きこもるパレスレジーナ城へ突撃する際に軍旗やらマスケット銃やらを持っていたか。あの時はやめさせたが、今回はなにも言うまい。
「まあいいや、どうせ捨てるか溶かして再利用するかしかねえからな。ガラクタでもいいなら好きに使えよ」
「ッ!! ああ、大切にする」
まるで玩具を買ってもらった子供のようにマスケット銃を大切そうに抱えたショウは、いそいそとどうやって身につけようか悩んでいるようだった。……そういえばなんか虚空から炎と共に出てきたと思うが、もうあの方式でいいのではないだろうか。
同じく銃を扱う者としてなにか共感できるものがあったのか、シズクは深海色の瞳に浮かぶ涙を拭う仕草を見せる。
「よかったねえ、オニーサン。自分の
「三〇歳ってことか?」
「れでーに年齢を聞くような野暮はなーし!! 年齢は詮索しないこと!!」
自分で言っておいて「詮索するな」とは随分と理不尽な発言である。とはいえ、女性に対して年齢を詮索するのは確かにマナーがなっていない。
だが、それも天魔憑きであれば関係ない。地上を蔓延る怪物『天魔』と契約を果たした人間は、寿命による死を超越した。その為、普通に生活していれば何百年何千年と生きることが可能だ。
「でもお嬢さんは天魔憑きのように見えるけどなァ?」
「ふっふっふー、ウチは【
またまた薄い胸を張るシズク。誇らしげな台詞も、少し馬鹿っぽい言葉を使ってしまうのでやっぱりなんか馬鹿に聞こえてしまう。
「それはそうと!! お二人さんは奪還軍の兵士さんだよね? 知ってるよ、王都を奪還できたんだって」
「マジで? もしかして有名になってる?」
照れ臭そうに頭を掻くユフィーリア。いつもは契約した天魔の【銀月鬼】の方が有名で、敵の天魔もそっちに注目してしまうのだが、これを機にユフィーリアや第零遊撃隊の認知度も高めたいものだ。
シズクは「有名になってるよ」と肯定して、
「【銀月鬼】と【
「畜生!!」
ごすっとユフィーリアは近くにあった木の幹を思い切りぶん殴った。さすが自然、殴っただけではビクともしなかった。
有名になっていればいいと考えたが、何故また【銀月鬼】の方が有名になるのか。これはあれか。もう諦めて【銀月鬼】を称号として生きた方がいいのか。
ショウは特にそう言ったことは気にしない性格なのか、それとも単に知らないだけか、「何故【火神】が有名になるのだろう」と疑問に思っているようだった。
「それはそうと、そんな強強なお二人にちょっとしたお願いごとがあります!!」
「八割断るつもりだけどそれでもいいなら言ってみろ」
「断る気満々だね!!」
あはは、と笑いかけたシズクだが、自分のお願いがよほど重要なことなのか、途端に真剣な表情になる。空気にも真剣さが伝播して、思わずユフィーリアも真剣になってしまう。
「――お願い、ウチと一緒にアクティエラに潜入してほしいの」
お願いの内容は、至極単純で簡単なものだった。
アクティエラに潜入すること――そしてそれは、シズクと一緒にである。
ユフィーリアとショウは互いに顔を見合わせて、それから代表してユフィーリアが質問を投げる。
「理由を聞いてもいいか?」
「えっあっえーとあー」
いきなり理由を聞かれて焦ったシズクは、深海色の瞳を泳がせる。嘘を吐いた時のハーゲン並みの反応だった。
「えーと、その、あ、ウチの故郷だから助けたくて!! そう!! 助けたいの!!」
「確かに狙撃手一人では都市を奪還するのは難しいだろう」
真面目なショウは、嘘だと明らかなシズクの言葉を鵜呑みにしたようだった。うんうんと共感するように頷く。
嘘がバレなかったと確信したらしいシズクは一瞬だけホッとしたような表情を見せたが、またすぐに真剣な顔に戻ってしまう。この嘘を貫くようだった。
ユフィーリアは考える。彼女のバレバレすぎる嘘を指摘するのは容易だ。だが彼女は嘘を吐いてまでアクティエラでなにかを成し遂げたいことも事実だ。そうでなければ嘘を吐いてまでアクティエラに行きたがらない。
(――まあ、女の嘘に騙されてやるのが男ってモンだしなァ)
銀髪碧眼の美女であるが、本来ユフィーリア・エイクトベルの性別は男である。思考回路も趣味嗜好も男のものに遵守されている。
だから、
「よーし分かった。お嬢さん、俺らと一緒にアクティエラに行こうじゃねえか。ちょうど俺らもアクティエラが目的だしな」
「本当!?」
深海色の瞳をキラキラと輝かせたシズクが、嬉しさのあまりユフィーリアへ飛びついた。薄い胸がぐりぐりと押しつけられてくるが、ふむ、これはこれでいい。
シズクの同行に納得がいっていないショウは、いつもと変わらず無表情のまま苦言を呈してくる。
「ユフィーリア、俺たちは作戦行動中だ。余計な同行者は増やさない方が」
「いいだろ別に、秘密事項なんざねえんだから。俺らがやるのはあくまでアクティエラの調査だ。異変を報告すりゃいいだけの簡単なお仕事だぜ」
それに、と張りつくシズクを引き剥がしてユフィーリアは言う。
「長距離攻撃をしてくれる後方支援がいるだけで生存率は格段に上がるだろ。お前は広範囲の掃討なら得意だろうけど、一点集中は向かねえんじゃねえか?」
「…………狙撃程度、俺にもできる」
謎の張り合いを見せるショウ。クソ真面目な少年は、どうやら臨機応変に対応することができないようだ。
しかしユフィーリアは、ショウを従わせる魔法の言葉を知っている。強情な少年でも従ってしまうあれである。
「ショウ坊」
「なんだ」
「命令だ」
「うぐッ」
魔法の言葉によってショウは反論ができなくなってしまう。ここで王都奪還作戦の時のように自分の意思を見せて「断る」と堂々と答えようものならユフィーリアも「断ることを断る」と反論してやろうとしたのだが、ショウは絞り出すような声でいつものように答えた。
「……了解、した」
「よーし決まりだな」
命令とつければ断らない性質を悪用し、強制的にシズクの同行を認めさせるという下衆な手段に出たユフィーリアは、歓喜のあまりショウの手を取って奇妙なダンスを踊る青い髪の少女に注目する。
彼女は確かに、なにかを隠している。
少なくともシズク・ルナーティアという少女は、アクティエラを救おうとしていない。
(嘘を吐いていた時点でなにかがあることは明白。さーてなにがあるのかね)
シズクが抱えるなにかが任務に繋がっていればいいのだが。
そんなことを密かに考えるユフィーリアは騒がしく笑う少女に振り回される相棒を助けるべく、二人に歩み寄るのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます