人形の国

 冬の名残なごりはどこかへとさらわれていき、桜の木もすっかり緑葉りょくようで色づいていた。でも、オフィスの様子は相変わらず。違うところがあるとしたら、昨日までは空席だった場所にジンくんがいて、空白の一平米いちへいべいにヒトの存在感が宿ったこと。


春原すのはらさん。“日本は人形の国”っていう話、知ってますか」

 なぁにそれ?

「研修先で友達になったアメリカ人の言葉ですが、マスコット人形やマネキンがそこかしこにいる文化にすごく驚いたって話です」

「あ、聞いたことあるかも。白髪白髭しらがしろひげ白いスーツのおじ様の人形の——」

 ジンくんがうなずく。

「思いのほか好評こうひょうでした。ウチのサイトにもどうですかね」

 マスコット? 理解はできるけど、具体的に何かある?

「ええ。ラフですが、少し描いてみたんですよ」

 え、作業しながら? すごいね。

「見ますか」

「いいの⁉ 見せて見せて!」

 ジンくんは絵も上手い。つい自然と興味が沸いてしまう。

 彼はおもむろにクロッキーブックを取り出した。

「マスコットに必要な外見のインパクト、再現容易な造形、想像しやすい歴史や背景。それらの要素を兼ね備えた我らがマスコット——」

 ごくり。


「ツタンカーメンの『ツタしゃん』です!」

 うん、ちょっと話し合おうか!


 ……エジプト大好きになったんだね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます