コードレス

 顧客こきゃくの課題一覧に対応した提案のリストを扱っていると、モニタ上に関係先から私のチーム宛てのコールがポップした。外線かな。反射的にピックアップする。

『ヴァイスCSシーエス班の春原すのはらです』

 ヴァイスシステムズ株式会社。弊社へいしゃだけど、いつ口に出しても、男の子って感じの名前ネーミング

 こんな感じで、電話応対のほとんどはこの管理画面から行なっている。

 なにせこの職場。固定電話機が一切ない。


『アルトの石間いしまです。カイさんいますか』

「ああ、イズミさん。カイさんなら外していますよ」

 一応、社用携帯がチームごとに配布されてはいるものの、外注の緊急対応窓口の転送か、提携企業さん等のみで、そもそもあまり鳴らない。

「それにしてもイズミさん。いつの間にか“カイさん”だなんて」

『え、単に下の名前を知らなくて——』


 ……下の名前?

 ああ、なるほど。


「彼は、下の名前がカイですよ」

 さらりと言うと、先方からとがった驚きの声が届いた。

甲斐カイさん、とかではないんですか」

 わかります。でも、本名は多久美タクミカイなんですよ。よく勘違いされてます。

 イズミさんがくすりと笑った。

『だって、いつもカイですとしか言わないし——』

 ホントにね。


 最初は私も間違えたんですよ。

 おかげで、下の名前で呼べますけど。

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