職場の近くで

 マウスを握っていた手先に、ひやりとした微風そよかぜが触れる。——日没の空気。雲間くもまから射す夕の暖かみも、よいの空気に冷まされていく。


 サクっと帰り支度じたくをしよう。机上きじょうをキレイさっぱりさせてからカバンを引っ張り出した。

スノちゃん。おつかれサマー」

 カイさんも、おつかれさまでした。

「これから友達とお食事とかー?」

 よくわかりますね。

「勘だけどね。あと、帰り支度の手際のよさとか」

 さすが見てますねぇ。たまには私も、友達と食事くらいは、ね。

「おつかれさま。いってらっしゃい」


 送り出されて会社を出たら、外は夕暮れが夜に切り替わろうとしている時分。大通りに出て横断歩道を渡ると、ちょうど、その友達がいた。

「チヅ! おつかれー」

 ご丁寧ていねいに軽く手を振ってくれている。こちらもそれに応じて近くに駆け寄った。

「カナ、ひっさびさー!」 

「言うほど久々でもなくね?」

 たしかに。三週間ぶりくらいかな。

「アンタが転職してから、すでに二回はんでるわよ」

 そうかな。そうかもね……。でもしょうがないじゃん。気楽だもの。

「今日もこのヘンでいく?」

「そうね。職場の近くで。でも——」

「でも?」

 会社のヒトはいなさそうなトコロで、よろしく。

「なんで」

 むからよ!

 酔うと表情カオがふぬけちゃうから!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます