バスの中で

 午前中から正午に差し掛かる、その狭間のけだるい時間。私とカイさんは、午前の予定を終えて、バスに揺られながら外の景色をぼんやりと眺めていた。

「橋の向こう。海がキラキラしてるねぇー」

「少し行けば、海沿いですからね」

 それにしても、財布を忘れてバスの中なのに、なんで落ち着き払っているのかしら。……あ、もう目的地に着きそう。私が立て替えとくべきかな。そっと財布に手を伸ばす。


 バスが止まったところで、窓の外から木漏れ日がそっと射し込んできた。ほのかに熱があって、点々とした陽射しが、私の手の甲をじんわりと温めてくれる。静かなお昼どき。


 カイさんはすっと立ち上がって胸ポケットからパスケースを取り出した。

 ——あれ? カイさん、財布忘れたんじゃ……。

 カイさんはそのまま、降り口でカードをかざして難なく降りていく。あ、私も降りなきゃ。

「お疲れ。お昼行こうか」

「は、はい。それよりカイさん。それ——」

「ICカードは持ってたみたい」

 先に言ってくださいよ……。

「胸ポケットに入れたまま忘れてたんだよね。一時はどうなることかと思ったよ」

 いや、もう、本当にそうです。


 なんでかな。

 カイさんって、すごいのにどこかズレていて、目が離せないのよね……。

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