帰途。

 会社を出て大通りに出た途端、ひやりとしたそよ風が私の鼻先を横切った。四月に入ったというのに、まだ夜になると肌寒くてコートは手放せない。それでも、来週になればきっと、街路樹がいろじゅの桜は散りはじめ、しばらくすれば、緑葉りょくようをつけて、街をいろどっていくのだろう。

 穏やかに、ゆっくりと歩いて帰ることができる道。振り返り、少し遠くにあるウチのオフィスビルを見据えた。

 もう、二か月になるのね。ここに通いだしてから。


 大学生として就職活動をしていた頃は、今の自分が「創造産業」などという物々しい言葉を引き連れた眩しいビジネスに関わっているなんて、想像できなかった。

 クラウド、ソリューション、グローバル。どれもかつての私には遠い位置にあった言葉。


 ヒトって、変わっていくのかもね。環境と、状況と、その時々の決心で。


 ——あら。

「カイさん?」

「おや、スノちゃん。今から友達と飲み会?」

 帰るだけですよ。そう言うカイさんは?

「僕も、帰るだけだね」

 そうですか。

 なら、そのうち、プライベートの話を聞かせてください。

「いいよぉ。長くなるよー」

 ほどほどでいいです。

 そう言うと、カイさんは朗らかに笑った。

 そして言う。

「今日もありがとう、スノちゃん。また明日ね」

 ええ、また明日。

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