カイさんの職能

ブン投げ

 自然に身近な環境で育った私が、都会の大通りに「案外あんがい緑もある」って思うようになったのは、いつからだろう。

 街の大通り沿いにある十二階建てのオフィスビル。その三階に私はいる。転職したての頃は、前の職場とは何かと雰囲気が違って、驚いたかな。


 もう昼下ひるさがり。陽光ようこう西日にしび色味いろみを帯びてきたみたい。視線の先では、街路樹がいろじゅの花びらが風にざあっと巻かれていた。


 そういえば、とかささんに話しかけようとすると、隣でカイさんが口を開く。

かささん。そろそろでしょ」

 彼女の眼鏡が、端末の前で青白あおじろく照っていた。

「——ん。すみません。いつも先で」

 笠さんは、気のない返事をしてから帰り支度をはじめた。育児とプログラミングをダブルでこなすクールな女性エンジニアは、これからわが子を迎えに行く。

「フレックスですし。早く行ったげて」

「ありがと、カイさん。進捗しんちょくは伝えた通りだから」

「お疲れー!」

 帰り際に多少のやり取りを済ませ、そのまま退社していった。


「残り、大変そうですか?」

「大丈夫。バッチリ受け止めたからー」

 こういうところ、頼もしいな。

「手伝いますよ」

と伝えると、このヒトはさらりとこう言う。


「大丈夫! ぜんぶ明日でオッケー!」


 ……彼のメンタル、鋼鉄製なのかな。

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