引き出し

 この職場は、前職と違って朝礼も特にない。グループチャットで社長が何か言っていたのは、見かけたかな。それより、問題はカイさんが残したお菓子の残骸ざんがいのこと。

 ちなみに、こうして私が対応に困ってフリーズしている間も、端末のディスプレイにはチャットが続々とポップアップし始める。テレワークの打刻だこく情報も更新されていた。

「チヅちゃん。打刻漏れはいないー?」

「あ、はい!」

 カイさんのお菓子はそっと脇に避け、業務開始。

「それ。カイさんの食べかけよ」

「ですよねー」

 まったく、カイさんったら、もう。

 食べかけをおみやげって、ちょっと。


 すると、すごい勢いでカイさんが入室してきた。


「ごめんよ春ちゃん! てか違うよ春ちゃん!」

 今度は何ですか。

「ごめん! それ自分の忘れ物!」

 そう言って、パクっと食べた。……食べた。

「あと、下! 引き出し!」

「引き出し?」

 彼が指さしたのは、私の定位置の席に備えられたサイドワゴン。

「あー、なる」

 もしかしてこれは、引き出しを開けたらお土産がちょこんとひとつ、サプライズ、的なアレですか。さすがカイさん。

 ガラッと引き出しを開ける。


 一面まるまる黄色い半月が敷き詰められていた。


「それが本当のおみやげ!」

 グッと親指。

「……」

 ——これ全部⁉

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