たべかけ

 かじられたお菓子が机に鎮座している。この状況、いったいどうしたものかしら。

「あの、かささん。これ……」

「うん? ああ、それは——」

 その瞬間、奥から清潔感漂わせる男性がぬっと現れた。爽やかな朝の風を連れて。——ここ、三階なんですけど、なんで風がフワっと吹いてくるの。

 その人が呼ぶ。


「あ、スノちゃんおはよう!」


 それは朝も早くからやけに元気で、遠くまで通る声だった。私の苗字……春原すのはらの片方を取って呼ぶ。

 そんな人は、この職場でこの人だけ。


「おはよう!」

「おはようです。カイさん」


 笑顔百倍。元気は千倍。必殺技はポジティブハート。

 私の職場のカイさんだ。


「うん! すのちゃんは元気ー?」

 おかげさまで。カイさんが元気ですからね。

「そうでしょう、そうでしょう。今日は好い晴れだからね」

 ところで、この三角の物体ですが……。

「ああ、それ! すのちゃんへのおみやげ!」

「えっ」

 彼はグッと親指を立てて好い笑顔だった。

「もう食べてるねー! 東京土産だよ!! 我ながらベタすぎ!」

 そう言い残し、スマートフォンを片手に颯爽と出ていった。

「お土産……」

「だってさ。チヅちゃん」

「……ええ」


 私へのお土産……。

 私への。


 うれし、うれ……う……。



 ——これ、食べかけなんですけど!!

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