2019.6.1~2019.6.15
幼児の記憶――商業施設の一角で、和太鼓の演奏が行われていた。私はそれを吹き抜けから見下ろしていた。
轟音が反響し全身を包んでいる。
一打一音が楔のように突き刺さる。
息ができなかった。冷や汗が噴き出し、膝が笑った。初めて感じた恐怖だった。今でも思い出すと、胸が苦しくなる。
(2019.6.1)
「人を弔う時は花を敷き詰めるのに、なぜ花を弔う時は人を敷き詰めないのだろう」
男には理解できなかった。
丹精込めて育てた睡蓮が枯れた日、男は花の葬儀を執り行った。棺の中には切断された人体が、萎れた花を抱くように並べられていた。
「安らかにお眠りよ」
男は穏やかに言った。
(2019.6.2 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる 花葬)
人魚の鱗を高く売るには、生きたまま剥ぐのがコツだ。一枚ずつ
(2019.6.3 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる 人魚の鱗)
立ち止まるべからず――それがあの桟橋を渡るときの決まりさ。俺らはガキの頃から嫌ッてほど言い聞かされてるからよ、決まりを破るヤツなんざ誰もいねェ。だけどたまに
え、今の声は何だッて? ああ、その余所者よ。
どうなッちまッたか、見てみるかい?
(2019.6.3 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる わたりの桟橋)
化け物退治の専門家は困っていた。目の前にいるのは謎の生命体、まぎれもない化け物である。
しかしどうにも退治する気にならない。
勇んでわしづかんだ右手が離れない。もふもふなのだ。にぎにぎしてみる。もふもふなのだ。この快楽は悪魔的ですらある。
専門家は廃業を考え始めている。
(2019.6.3 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる 悪魔のもふもふモンスター)
その煙突は、澄みきった青空の下に不釣り合いなほど黒く聳え立っていた。工場の煙突だった。昼夜を問わず稼働し続けて、長年の煤やら何やらで覆われていたのだ。
町の景観を、いや青空を損ねる――市民の訴えで、煙突は爆破解体された。
その翌日、空は真っ黒になった。
煙突は、もうない。
(2019.6.3 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる 青空に映えない煙突)
その日催されたグラン・ギニョルの人形劇は観客の顰蹙を買った。
登場人物の所作がいちいち鼻につくのだ。右も左も馬鹿丁寧。筋書きなど二の次、憂さ晴らしが目的の観客は我慢の限界と、怒声と共に舞台に乗り込んだ。
しかし裏には誰もいない。魂の抜けた人形が転がっているだけだった。
(2019.6.3 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる 慇懃無礼のマリオネット)
夜空に星がひと筋、流れた。あとには
(2019.6.3 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる 流星をなぞる)
「神のセンスは最低だ」モーツァルトはぼやいた。
「トルコ風って曲を書いたからトルコに転生させるとか……」
「私は君の新譜が聴けるならどこだって構わんよ」
サリエリは呑気に笑う。
「あのね……おや、この楽器は?」
音楽家は露店に首を突っ込んだ。相棒の望みは早くも叶いそうである。
(2019.6.3 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる トルコ風異世界転生)
それは実に巧妙な罠だった。世界中のレジが90年代のマッキントッシュになっているなんて誰が思うだろう? ふらりと立ち寄っただけのコンビニで、時計の短針はもう三度回ってしまった。いまだ会計が終わる気配はない。私の冒険はここまでのようだ。おにぎり一個で詰んだ勇者を笑うがいい。
(2019.6.4 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる 転生したら世界中のレジが90年代のマッキントッシュになったので全然会計できない)
ああ、探偵さん、貴方は分かっているのだ。殺したのは私だと。そして凶器はこの花瓶だと。
あの時、殴りつけた衝撃で欠けてしまった。人が来て、私は咄嗟にその面を壁に向けた。稚拙な隠蔽工作は、きっとひと目で見抜かれた。
だけど貴方は何も言わない。
探偵さん、一体私に何を望むの?
(2019.6.4 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる 欠けた花瓶)
若者たちで賑わう街角。ふと足元に目をやると、アスファルトの亀裂に雑草が見えた。踏まれてひん曲がった茎は、それでも陽の光を求めて天を向いている。
気づけば雑踏は無声映画のように眼の前を流れている。
その中で私はぽつんと取り残されている。
孤独は、どこにでも落ちているのだ。
(2019.6.4 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる 街中の孤独)
神の教えは二千年を経て伝播した。一方で、何の変哲もない男のつぶやきはものの数秒で世界を駆ける。
何故だ――神は首を捻った。いささかの嫉妬もあった。
まずは敵を知ること――神はアカウントを作り、つぶやいてみた。
「私は神だ」
すぐにリプライが来た。
「はいはい嘘乙w」
神は泣いた。
(2019.6.4 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる ツイート)
何度も求められるうちに、そんな文句も言わなくなった。今では奇妙な使命感に憑かれて、あいつの欲を満たしている。一線は引いているつもりだ。だけどそれもいつまで保つだろう。ゴム風船が割れて、虫どもが押し寄せてくる日を心待ちにしている自分がいる。きっとろくな死に方はしない。
(2019.6.4 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる 寝るために生きてんじゃないんだけど)
「私は自分の存在が耐え難くなった。誰かの空席としてしか生きられないなんて虚しすぎる。数学よ、さらば」
こう書き遺して、αは死んだ。
程なく彼がいた位置にはβが代入され、以降順繰りに23文字が腰を据えた。多少の混乱はあったが、数学界はつつがなく回っている。
そんなものである。
(2019.6.4 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる αの遺言)
「いいかい、こいつを飲むにはちょいとコツがいるんだ。まずは口に含む。ちくちくするけど、焦って飲み込んじゃダメだ。舌先で転がしながら、据わりのいいところに粒を揃えて……静かに喉へ滑らせる。どうだい、ちりりとした刺激が堪らないだろう? これがルビーでできたワインの飲み方さ」
(2019.6.4 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる ルビーでできたワイン)
「いいから開国してくれよー」
吉村の鉄板ネタだ。ついたあだ名は『ペリー吉村』。そんな彼も最近はマンネリ気味。ヤジられた彼は苦し紛れに、
「そんなこと言ってると黒船呼んじゃうんだからな!」
大爆笑。満足げな吉村に、私は渾身のツッコミをかます。
「いやお前乗ってきたんだろ」
(2019.6.4 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる ペリー吉村)
携帯端末の普及で、待ちぼうけやすれ違いの悲しみは消えたかに思える。けれどもやっぱり僕たちは、いつまでも表示されない『既読』に悶え苦しんでいる。悲しみは相変わらず世の中にあふれている。愛のかたちが移ろいゆくように、悲しみのかたちもまた、時代に沿って姿を変えてゆくのだ。
(2019.6.5)
月明かりの下で、君の肌の白さを知った。意地悪な太陽は僕を妬んで、目眩さの中に隠していたんだね。触れてもいいかい――待って、逃げないで。傷つけたりなんかしない。手を繋いでよ。指を絡めてよ。その白さを僕に焼きつけてよ。
ああ、お月さま、お願いだ。もう二度と沈まないでおくれ。
(2019.6.5 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる 月下、君と散歩して)
定年はあの世から迎えが来るまで。なけなしの給料から徴収される保険料や年金は何処へ消えるのか。消費税は天井知らずで、おにぎり一個に札が舞う。街をうろつくは爺婆ばかり、病院と葬儀屋の連合会は左団扇で笑いが止まらない。
きっとこれは夢だ。たちの悪い白昼夢なのだ。
……本当に?
(2019.6.5 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる サイケデリック・デイドリーム)
昨日と明日が入れ替わり、世界は混乱した。
「明日の試合は大勝だった」
事実その通りになった。
「では続きは昨日に」
時間を遡る者が相次いだ。
翻訳機の普及は追いつかず、昨日と明日の使用は禁止された。
※この文は行政の検閲済みであり、過去未来に何ら影響を与えるものではない。
(2019.6.5 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる 明日、そしてまた昨日)
未来が選べるようになって久しい。人々は店頭に陳列された未来から望むものを買うのだ。もちろん差はある。薔薇色の未来は億でも足りないし、暗黒の未来は硬貨一枚でもお釣りが来る。身の丈を弁えるのが一番だが、残念ながら人間はそう利口ではない。未来を選べず死ぬ者も少なくはない。
(2019.6.5 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる 選択的未来)
雄牛が人間の女に欲情し、村の娘を犯して回った。親たちは鍬やら斧やらを持って牛を八つ裂きにしようとしたが、どういうわけか死なない。村人は雄牛を畏れて、祭壇に祀ることにした。今でも年に一度、娘が夜伽のために捧げられている。柱に結ばれた鈴は、その度にひとつずつ増えていく。
(2019.6.6 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる 祀られた雄牛と鈴)
敵機の機関砲は双翼を完膚なきまでに打ち砕いた。風の加護を失った複葉機は海面へと墜ちていく。天地が反転し、眼下に雲ひとつない空が広がる。できれば、あの只中で死にたかった――悔やんでも遅い。戦下手の飛行機乗りには当然の末路だ。男はゴーグルを外して、遠ざかる青に敬礼を捧げた。
(2019.6.6 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる 死よ、果てしない空よ)
月の果てには何があるのか。
それだけを知りたくて僕は宇宙飛行士になり、スペースシャトルをジャックした。クルーを宇宙に放り出し、地球との通信も遮断して、僕は独りになった。
さあ、行こう。
舟は地球の引力を離れ、月へと機首を向ける。太陽のフレアが衛星を黒く浮かび上がらせた。
(2019.6.6 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる 月の果て)
子供たちは描かれるために集められる。揃いのスモックを着せられて、順番にキャンバスの前に立つ。モデルとなる時間以外は、各々好き勝手にして過ごしている。絵が完成すると、モデルとなった子供は姿を消す。誰もその子のことを覚えていない。やがて新しい子供がアトリエにやってくる。
(2019.6.6 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる アトリエの子供たち)
立ち昇る刺激的な香りに思わず怯む。恐る恐る口に含むと、意外なほどしっとりとした甘みが舌に満ちる。喉を潜らせてチェイサーをひと口……の手が止まる。まだ終わっていない。濃厚な主張は続いている。
トランスコンチネンタルラムライン『フィジー』。重い一杯だ。だが、飲む価値はある。
(2019.6.7)
(嘘だろ……)
私は呆然とした。手には齧りかけのショートケーキ。間違いなくさび抜きを頼んだ。なのに。
(わさび……入ってるやん)
生地と生地の間にこれでもかと塗り込んである。味覚はとうに死んでいる。ゆるゆると厨房を見やると、料理長と目が合った。
料理長は会心のウインクで応えた。
(2019.6.7 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる さび抜きショートケーキ)
少女は祖母の家へと独り歩いている。冒険は佳境を迎えていた。苦しい道のりだったが、何とか乗り越えてきた。特に下半身を覆う防具には幾度も命を救われていた。
祖母の姿が見えた。到着だ。
歓迎を受けて、汚れた服を着替える。役目を終えゴミ箱へと消える防具を、少女は涙で見送った。
(2019.6.8 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる おむつ少女の冒険)
通報を受けて駆けつけた路地は、血の臭いに満ちていた。丑三つの闇は深く濃い。
どんづまりに熊ほどもある獣が蹲っている。私は拳銃を構え懐中電灯を向けた。獣は顔を上げた。
その鼻先に、死んだ母の顔が付いていた。赤黒く汚れた口許。
獣は母の顔で笑った。
そして、私の名を呼んだ。
(2019.6.9)
続:私は引鉄を引いた。獣は母の声で喚きながら死んだ。
翌日、交番に現れた女は雪と名乗った。私の殺した獣は『思慕』と呼ばれる怪異で、鼻先の顔は相対した者が記憶する死者を模すという。
「よく殺せたな。普通は躊躇うのに」
雪は言うが何の不思議もない。
私は普通ではないのだから。
(2019.6.10)
続2:私には人の心が無い。害なすものは誰であろうと排除する。暴力も厭わない。罪悪感など欠片も持ち得ていないのだ。
「貴方の方がよっぽど獣だ」
呆れながら言う雪だが、私の性質は彼女の眼鏡に適ったようだ。その日から私は『思慕』の狩人となった。獣を狩るには獣ということだ。完。
(2019.6.11)
工場長は思わずコンベアを止めた。行儀よく整列した裸の美少年たち。その身体に歯型や鬱血の跡が付いている。傷物の美少年は商品にならない。いったい誰がこんなことを――工場長の顔は怒りに染まった。
……彼は知らない。寝静まった夜の工場で、美少年たちが淫らな宴に興じていたことなど。
(2019.6.11 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる 美情念工場の事件日誌)
公園の花壇にサルビアが咲いている。甘い蜜を無心に吸った記憶が甦る。あの頃はサルビアという名前すら知らなかった。
いま僕たちは、名前も知らないものを口にできるだろうか。
僕たちは大人になるにつれて大切なものを失くしていく。あるいはそれが大人になるということかもしれない。
(2019.6.12)
そう言って、貴女は月をフリックした。哀れな天体は夜からフェードアウトし、街の灯が二人を黒く縁どる。
「お月さまのせいになんか、させませんから。」
僕は降参して、宙に大きく手を振った。夜はスワイプされ、東の空に陽が輝く。君に愛を告げるには、朝焼けの金色の中がふさわしい。
(2019.6.13 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる 「月が邪魔ですね。」)
人類史はそう呼ばれる。個の生死、国の盛衰……それらは全て、時の流れへの抗いだ。愚行である。しかし武器を捨てる理由にはならない。停戦休戦も、最初から選択肢にない。勝てないなら永遠に挑み続ければいい――人は愚者の論理に囚われて生きている。それこそが、人を人たらしめているのだ。
(2019.6.14 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる 恒久的戦闘期間)
バスは都市高に入る。車窓の風景が上昇し、右手に湾が開けると、乗客の視線は一様にそちらへ向けられる。そこにアドリア海があるわけではない。貨物船が行き交う玄界灘だ。彼らはきっと景色そのものを見ているのではない。高台からの眺めに胸を高鳴らせた、幼き頃の自分を見ているのだ。
(2019.6.15)
水槽に夜が訪れた。熱帯魚たちは岩陰に身を潜め、睡眠を摂っている。大海を自由に泳ぐ夢でも見ているのか――人間は平気でこんなことを言う。ガラス張りの箱庭しか知らない彼らに、そんな発想ができるはずがあろうか。見るとすれば無精な世話係を丸飲みにして、日頃の鬱憤を晴らす夢だろう。
(2019.6.15 #テキトーなタイトル置いたら誰かが引用RTで内容を書いてくれる 熱帯魚の見る夢)
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