城が欲しいか?

 元服を済ませてから、初陣まではあっという間であった。

 美濃は今現在も頼芸様方と頼武方に分かれて内乱の最中であった。

 その為、小競り合いはあちこちで起きていた。

 私の初陣もそんな小競り合いの一つで、日根野弘就の父である日根野九郎左衛門尉の指揮下で、いきなり300の兵を率いて戦うこととなった。

 戦いが始まり、弓の応酬になったので、大島光義が活躍し、私も弓で初めて人を殺した。

 浮き足だった敵に突撃し、見事に勝利することが出来たのだ。


 そんな小競り合いを何度か経験し、兵を指揮をすることに慣れた頃、義祖父である西村勘九郎正利と養父である西村新九郎規秀に呼び出された。


 「庄五郎よ、300を指揮し、敵を打ち破って初陣を飾るとともに、その後も兵を率いて戦果をあげているようだな。兵の指揮にも慣れてきたか?」


 極道組長の義祖父がニヤニヤしながなら語りかける。


 「揮下の兵隊が従ってくれているため、徐々にですが、指揮をすることにも慣れてきております。これも、義祖父様と養父上のお陰でございます」


 「殊勝なことを言いおるのぅ。其方の指揮はなかなか堂に入っているとのことだぞ。もっと自信を持って良いぞ。

 ところで、本日呼んだのは他でもない。其方が初陣を果たしたならば、城を与えるとの約束の件だ」


 「城を貰えるのですか!?」


 とうとう城を貰えるのかと期待してしまう。


 「其方は300以上の兵を指揮をすることが出来ると見込んでおる。城を与えても良いだろう。しかし、与える城がない」


 義祖父の言葉に思わず落胆してしまった。


 「しかし、与える城は無いが、与える土地はある。其方に土地と城を与える故、見事城を建ててみよ。城が出来たならば、その城と周辺の領地を与えよう」


 「誠にございますか!?どこに城を建てれば良いのですか?」


 「其方に与える土地は、可児郡中井戸村一帯よ。中井戸村の南に高山なる山がある故、そこに城を建てるのだ。」


 「中井戸村とは、どのようなところですか?」


 「中井戸村は、可児郡の木曽川沿いにあり、その高山に城を築けば、木曽川の流通を把握し、東美濃を睨むことが出来る地よ。

 東美濃の明智や妻木は協力的だが、他の東美濃の諸将は日和見を決め込んでおるようだ。いつどのような手を打ってくるか分からんからな。其方には東美濃に睨みを効かせてもらいたいのよ」


 義祖父の言葉から、史実通り兼山の地が与えられるのだと分かった。兼山なら予定通りなので問題ないどころかありがたい。


 「兵は如何程お預けくださるので?」


 「2000じゃ。2000の兵を率い、東美濃の諸将に睨みを効かせよ」


 「畏まりました。高山に城を築き、東美濃に睨みを効かせてみせましょうぞ。」


 斯くして、私は中井戸村一帯を与えられ、兼山の地に城を築くこととなった。



 「若様、いえ、殿。領地を賜ったとのこと、誠におめでとうございます。」


 黒田重隆を筆頭に家臣たちが祝いの言葉を述べてくれる。


 「しかし、領地は貰ったが、城は無い。それどころか城を建てろとは、酷なことをなさる」


 瀬田左京が思わず愚痴を溢す。


 「左京殿、下手な城を与えられるよりも、良い結果ですぞ」


 黒田重隆が瀬田左京を嗜める。


 「重隆の申す通りだ。中井戸の地は木曽川の流通を制するとともに、東美濃を臨むことが出来る。そして、頼武方との戦の舞台となっておる中美濃や西美濃は山で隔てられておるからな。兵を養う、領地を豊かにするには都合が良い」


 私は重隆の意見を肯定するとともに、その理由を説明した。


 「領地を賜ったからには、役職と身分を与えねばなるまい。黒田重隆は長年仕えてくれた譜代である。よって、家臣筆頭に任ずる。当家の家臣たちを統率するとともに、特に勘定方に重点を置いて勤めよ。」


 「ははっ!ありがたき幸せ。粉骨砕身でお役目を勤めさせていただきます」


 「うむ。続いて、多羅尾光俊は改めて、準一門として扱う。特に裏方を任す故、重隆とよくよく相談するように勤めよ。尚、光俊はまだ若い故、与力に長良孫三郎を付ける。」


 「畏まりました。改めて身命を賭して、忠誠を誓わせていただきます」


 多羅尾光俊はあまりの厚待遇に感動したようだった。

 まぁ、私の家臣で譜代と言えるのは、幼少期から仕えてくれてる黒田重隆しかいないし、親戚と呼べる者もいないから、近衛家から分かれた多羅尾光俊を準一門として扱うことでバランスを取ってみた。

 瀬田左京と大島光義はまだ仕えて間もないので、当分は役職に就けず、黒田重隆の指示に従ってもらうことにした。


 斯くして、領主となった私は、築城のため中井戸村へ向かうのだった。

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