第14話 エスユーブイ
3人は、エンジン音のする方へ目を向ける。もちろん 3人だけではなく、公園内にいるホームレス達も音のする方向を見た。
そのエンジン音を響かせていると思われる車が、公園に向かってきていた。
遠目からでもわかる黒塗りの大きな車体、軍用車から派生した高級SUVだ。
どんどん速度を上げて向かってくる。
「おいおい、まさか……」
師匠がそう呟いた瞬間、車はクラクションを鳴らしながら公園内に突っ込んできた。
ホームレス達も驚き 車に轢かれぬようにと道を開ける。
大きな車体が密集したテントの隙間など通れるはずもなく、行く先を阻む
車は徐々に速度を下げ、佐藤達の前で止まる。
その車からスーツを着た男が慌てた様子で出てきた。
「静香様! 」
車から降りてきた人物は背筋はぴしりと伸び、張りのある声をしている老いた白髪の男だ。
「友人のお宅に泊まるというお話でしたが、GPSが無効状態になっていて心配いたしました! なぜ、またそのようなことをしたのですか! 」
「プライバシーの侵害だからよ」
静香は半目で言葉を続ける。
「なんで人の家を壊しながらこっちにくるのよ。最低 —— 」
「そちらの方は誰ですか? 」
白髪の老いた男の視線にいるのは佐藤 剛だ。
彼は平然と訊いたつもりのようだったが、佐藤は 警戒しているだけではない 自分に対しての侮蔑が含まれているのを感じた。
静香の方はというと、白髪の男に言葉を遮られたことが気に食わなかったようで不機嫌そうな口調で答えた。
「クラスメートよ」
「そうでしたか」
白髪の男がまた口を開く前に、佐藤が言葉を発した。
「原川静香、この
「しら……!? 」
「この人は、私の執事、森さんよ」
佐藤の思考が一瞬フリーズする。執事、執事がいる、ということは……。
「お前、お金持ち、だったのか」
「まぁ うん」
彼女は髪を耳にかけながら答えた。
森は咳払いをひとつすると、早口で話しだす。
「静香様は 大手医療機器メーカー
佐藤はぽかんと口を開けたまま、原川 静香を見るだけだ。
「こいつは人に興味ないみたいだから、今の今まで本当に知らなかったみたいよ」
そういえば、と静香は思い出して この場にいる筈のもう1人に声をかける。
「佐藤の師匠さんも 私が…… 」
彼女は、佐藤に師匠と呼ばれる男が居たはずの方向を見るが、その男は消えていた。
彼女は佐藤に顔を向けるが、佐藤は目を合わせようとせず、静香の執事である森を見つめるだけだ。
「誰か いらしていたのですか? 」
「何でもない! 」静香は首を振った。
森は訝んだ様子で、 辺りを見回す。
「佐藤、
佐藤は黙って 彼女に端末を手渡した。
その間も 森は見回していたが、ホームレスの中に 特に変わった人物は見つけられなかったようだ。
「森さん、私を迎えに来たんでしょ? そろそろ帰ろうよ」
「わかりました」
納得はしていないが 原川 静香の保護を優先させた方がよい、と判断したのようだ。
車のドアを開けて静香を乗せると、森は佐藤に近づいてきた。
佐藤の目の前までくると 冷然として言い放つ。
「あなたが何を考えて静香様と一緒にいたかは知りませんが、これ以上彼女に関わらないようお願いします」
「俺は関わりたくて関わったわけじゃない」
「と いうと?」
「本人に聞けばいいだろ」
「森さん どうしたの? 」静香が後部座席の窓を開けて、顔を出した。
「なんでもありません、静香様。では、失礼致します」
森は佐藤に一礼して、運転席に乗り込んだ。
公園から公道に出るまでバックで進んだのは被害を最小限にするためで、原川 静香の指示だろう。
あの白髪老人なら 公園内で方向転換をしそうだ と佐藤は思う。
公道まで出て方向転換をし終えると、高級SUVは そのまま走り去っていった。
「……」
「あいつら 出ていきましたよ。師匠」
「おう」
自分のテントの中に身を隠していた師匠は周りを見回しながら出てきた。
「なんで隠れるんすか 師匠」
「そりゃ、rich personが嫌いだからさ! 」
「? 」
「金持ちって意味さ」
師匠はそう笑った後、大きく顔をしかめる。
「あと、GPS端末も嫌いだから。この前、女にあの形状に近いGPS端末つけられてさ。そいつに待ち伏せ食らって刺されかけたからなぁ…… 」
どうやら これが本音のようだ。
師匠は 一回きりの関係だろうと 女との話が拗れる。
だいたい大きく拗れるため、女の仲間に集団暴行されそうになるか、殺されかけるか。
彼の女運のなさは 佐藤 剛が感心するほどだ。
「あんなGPS持ち歩いてる金持ち娘とは関わらない方が賢明だぞ。剛」
「メイは原川 静香をこっち側に引き入れたいようです」
「は!?
◇◇◇◇◇◇◇◇
「静香様、あの少年とはどのような関係なのですか? 」
黒塗りのSUVを走らせている 森が尋ねた。
平静を装いながら尋ねてきたことは 静香にはよく伝わってくる。
長年、自分の面倒を見ているのだから 心配して当然だと思う。
「ただのクラスメートよ」
静香は、窓を見つめたまま答えた。
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